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怪盗(変態)神父チャパン
「おお、可憐なる巫女殿よ!! 下町にも光と共に笑顔を振り舞いてくれるのですな!! まさにその熱き思いは、情熱のごときこの赤い薔薇がよく似合う!! さ、拙僧がお供いたそう!」 路地裏の安酒場。その中央で、派手に赤い花束を差し出す男。 黒い神官服に身を包み、いかにも胡散臭い笑みを浮かべる中年神父、チャーリー・ウッド。 対するは、白い修道服を纏った若きシスター、アリセア。 彼女は険しい顔で腕を組み、呆れたように男を睨みつけた。 「……あなたという人は、どこまでふざければ気が済むのです?」 「ははっ、お戯れを。拙僧は至って真剣に――」 チャーリーは薔薇の花束を差し出したまま、低く小さな声で囁く。 (あんたの疑問を宗論の形で俺に話せ。俺を罵倒する振りで疑問を伝えろ) アリセアの眉がわずかに動いた。だが、それを悟られぬように、彼女は大きく息を吸い込み、勢いよくまくし立てる。 「何が情熱ですか!? あなたのような不真面目で堕落した神父が、下町で無駄に信者を集めて、幸運神などという胡散臭い信仰を広めるから――」 (至高神殿の派遣組は何を考えている? 本神殿との間に何か溝があるのか?) チャーリーは軽く顎を撫で、「ふむ」と唸った。 「それはそれは、おっしゃる通りで……しかし、巫女殿? 拙僧とて、何かと悩み多き身でしてな……おお、酒場の主人よ! そこのエールをもう一杯!」 (派遣組は聖典の解釈に独自の方針を持っているが、本神殿との齟齬は表面化していない。今のところはな) アリセアは苛立たしげにテーブルを叩いた。 「……もう結構です! あなたのような人物に関わるだけ時間の無駄です!」 「おやおや、それは残念。では、この薔薇だけでも――」 チャーリーが薔薇の花束を再び押し出す。 (大声で怒って席を立て。ついでに花束を俺に投げつけろ) アリセアはわずかに戸惑ったが、すぐに覚悟を決めると、怒りに満ちた声で叫んだ。 「いい加減にしなさい!! この変態神父!!」 彼女は力強く花束を掴むと、勢いよくチャーリーの顔めがけて投げつけた。 「うおっ!? これは手厳しい……!」 花束を顔面に受け、派手に椅子ごとひっくり返るチャーリー。 酒場の客たちは爆笑し、周囲の騎士たちは「またか……」と言いたげにため息をついた。 アリセアはふんっと鼻を鳴らし、さっさと酒場を後にする。 しかし、誰にも気づかれないように、彼女の修道服の袖には、赤い薔薇が一輪だけ、そっと忍ばされていた。 チャーリーはそれをちらりと見たが、何も言わずに、倒れたままの姿勢でにやりと笑うだけだった。 「いいセンスしてるじゃねぇか、小さなシスターさんよ……」