ブロント少尉、空母に艦淑女を見出す

浜辺でのアイス事件から数時間後—— 炎天下の砂浜でMP（憲兵）たちにアイスを振る舞い、全員の士気を無意味に高揚させた責任を問われ、ブロント少尉と富士見軍曹は任意同行を求められることとなった。 「これは…作戦だ。つまり、私は軍の士気を高めただけですよ、合法です合法！」 「少尉、今は黙ってた方がいいです。MPさんたち、どんどん数が増えてます…」 詰所に向かう護衛はすでに4名から倍増し、見物人まで増え始めていた。 MPの一人は口の端にチョコミントの痕跡を残したまま、なぜか上機嫌である。 「……で？ どこまで護送されるんです？ アラスカですか？」 そんな中、ふと彼女の金髪ポニーテールが風になびいた瞬間だった。 基地内の移動途中、目の前に巨大な艦影が現れる。 「みろ！！ あのデカブツ！！」 誰よりも早く気付いたブロント少尉は、指を空母へと突き立てて叫ぶ。 「自己主張が激しいどてっぱらと、東京タワー並みの身長！！ そそり立つ管制塔はまるで…まるで大統領が親指を立てて、海面を仁王立ちで滑ってくるようではないか！！」 MPたちがぽかんとする中、ブロント少尉は制服の内ポケットからスケッチブックを取り出した。 「私は日本文化に精通しているから詳しいんだが、船というのは女性である！！ よって、あの空母にふさわしい船魂を描いてやる！！」 「ちょ、ちょっと！ 少尉！ また勝手に何か始めてる！」 さらさらさら……！ 迷いのない手つきで描かれていく1人の女性の姿。 それは――現代的なアメリカ海軍の女性士官服を身に纏い、空母の背後に守護霊のように立つ、堂々たる美人。 目元の印象や立ち振る舞いは、なぜかどこかで見たような、某国のファーストレディを彷彿とさせる。 「どうだ！！ 空母トランプの船魂、艦淑女トランプ！！ 気高く、美しく、それでいて圧倒的！！ナンバーワン！！」 MPたちの間に静寂が走る。 次の瞬間、 「ブハッツ！！」 「あかんｗｗｗなにそのファーストレディ風ｗｗｗ」 「さすが少尉、スケールが違う…ｗｗｗ」 富士見軍曹はため息をつきつつも、しっかりその絵をスマホで撮影していた。 「後で本部に送ります…アイス事件と合わせて、上層部も笑ってくれるといいんですけどね」 翌朝、米軍司令部の掲示板に、謎の「艦淑女トランプ」スケッチが匿名で貼り出されていたという……。