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アイスと空母とMPと ―「ピース・オブ・アイス ~愛すべき間合い~」―

日本時間 午後三時。空は青く、波は穏やか。白い砂浜を歩く影一つ。 金髪ポニーテールで、黒軍服の細身の少女が、沖合の空母「CVN-82 ドナルド・ジョン・トランプ」を双眼鏡で見つめていた。 「CVN-82……ドナルド・ジョン・トランプ……。ふふ、でっかい空母ですね。 あれが艦載機用のエレベーター……あ、今ちょっと動きました。すごいです」 少女の名はアンジェラ・ミカエラ・ブロント少尉。米軍基地近くの浜辺で散歩しながら、世界最大級の空母を観察していた。 しかしその行動は、見る人が見れば“非常に”怪しく映った。 「……ふふ、あんなにでかいと、アイスクリームマシン、食べ放題で絶対積んでるわね。まさに空母!!カロリーの暴力……!」 手には白いクーラーボックス。中には宝――抹茶味のコーン付きアイスが、数本。 彼女はただ、それを食べながら空母を眺めるという、少尉としては実に平和的な行為をしていた……はずだった。 「STOP RIGHT THERE! IDENTIFY YOURSELF! WHAT’S IN THE BOX!?」 MP(軍警察)が現れ、警戒した声で叫ぶ。 明らかに怪しい軍服の少女が、双眼鏡とクーラーボックス。疑われるのも当然だった。 「アイアム・リューテナント・ブロント。アンド・ディス・イズ・ア・ボックス・オブ・ピース。アイス・イズ・ピース!」 発音こそ日本式だが、流暢な英語で応対するブロント少尉。 しかし、MPの顔は厳しくなる。 ――気配を感じ取った。わずかに銃口の角度が変わった瞬間 すっと滑るように踏み込む 一瞬で間合いを詰める。 50cm以下、ライフルの取り回しが効かない距離。 そこから突き出されたのは、キンキンに冷えた抹茶アイス。 「……Eat. Or Be Eaten.」 「Oh……?」 MPの口に、コーンごと押し込まれるアイス。 味に驚き、冷たさに凍りつき、思考停止するMP。 平和的解決(?)を果たしたかに見えたその時―― 「――そこまでです、少尉」 背後から、ひんやりした声。 「っ!」 現れたのは、富士見二等軍曹。 格闘記章を誇る小柄な軍人で、少尉の暴走にたびたびブレーキをかけてきた人物である。 「MPに抹茶アイスで沈黙を強いるとか、ありえません」 「ちょ、ちょっとまって、軍曹もアイス欲しいなら……!」 再びアイスを抜き取り、華麗に突き出す―― が! 「見切りました」 富士見軍曹の手が伸び、アイスを持つブロント少尉の腕をとるや否や、流れるような関節技でそのままアイスを――、 いやブロント少尉のしなやかな長身を 空中へ投げ飛ばした。 「のわ~っ!!」 スローモーションで宙を舞う抹茶アイス。 だが――それを見た少尉の体が、条件反射で動いた。 ガッ!! そのまま逆さまに落下しつつ、口で受け止めるブロント少尉。 「むぐっ……っ!?」 見事に口の中に突き刺さった抹茶コーン。 冷たさと衝撃で涙目になりながら、もごもごと呟く。 「アッ、アイスは、平和の象徴、のはず……。守らないと‥‥‥」 背中から砂浜に着地しながら、勝利とも敗北とも言えぬ表情を浮かべるブロント少尉。 富士見軍曹は肩をすくめながら、言い放った。 「ブロント少尉。アイスの使い方、間違ってます」 「……ぐぬぬぬ……抹茶味、ほろ苦いわ……」 ――平和は、いつもこんなふうに、不器用に守られている。

さかいきしお

コメント (4)

なおたそ
2025/05/22 17:11
みやび

チョコミントならMPのひともニコニコだっただろうな~

2025/05/22 16:35
gepaltz13
2025/05/22 15:42
成年自由党
2025/05/22 15:11

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