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断崖絶壁の戦略的イチゴ農園
ブロント少尉が、白雀さんを召喚したようです ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 朝の空気は澄みわたり、士官学校の教官寮にも静かな陽光が差し込んでいた。 四階のベランダには、黒い詰襟の制服を着たブロント少尉が仁王立ちしていた。 制服の裾からのぞくプリーツスカートが、朝の風にふわりと揺れている。 「ふふふ……この断崖絶壁の要塞の戦略的イチゴ農園には、いかなる狩人とも寄り付けまい」 そう言いながら、少尉は小さなプランターのイチゴを一本一本確認していた。 赤く熟れた実を慎重にもぎ取り、指先で軽く拭って、口元へ運ぶ。 「ふむ、完熟……敵の侵入を許さず、なおかつ極上……勝利である」 そのとき、どこからともなくふわりと舞い降りてきた白いもふもふの鳥が、少尉の頭にとまった。 まるでその場所が定位置であるかのように、まったく物怖じしていない。 少尉はそのまま空を見上げ、静かに目を細める。 「ふむ、貴様もこの要塞に挑んだ狩人ということか。 よかろう……その意気に免じて、至宝の宝石ピジョンブラッドたりえる、真紅の果実を分け与えよう」 そう言って、小さなイチゴを鳥のくちばしに差し出した。 白い鳥は一拍おいてからそれをつつき、小さな声で「ピッ」と鳴いて、満足そうに身をすくめる。 その様子を、隣のベランダから寝間着姿の富士見軍曹がひょいと覗き込んでいた。 薄桃色の朝日がその頬に当たり、苦笑いを浮かべている。 「また何か変なこと言ってますね、少尉……」 ブロント少尉は、振り返りもせずに答える。 「変ではない。これは高次元の戦略的恩赦、すなわち友誼である。ちなみにこの鳥は、特務一等観測兵だ」 「そうですか……観測は得意そうですね。頭に乗ってるし」 二人は顔を見合わせ、鳥もいっしょになってピィ、と鳴いた。 そして、三者三様に笑った。 朝のベランダには、静かでちょっと不思議な平和の光が満ちていた。