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青春の味は何の味?
「ブロント少尉。明日、ラグビー部の練習試合に随行してもらえますか?」 「えっ、私がですか?!」 ブロント少尉は、教官室の入り口で直立不動になった。 やった、また、ボールを持ってみんなと走れる!! 思わず口元がにやけてしまうブロント少尉。 だが。 「非常に不本意ですが、監督顧問がそろって病欠で。暇ぶっこいてる教官は、あんたぐらいしかいないんですよ」 「はーい!! よろこんで!」 結構ひどい言いように、なぜか勢いよく返事してしまうブロント少尉。 青春ドラマに感化されてやらかして、まだそれほど立っていない。。 「先に言っておきますけど、プレイに加わったら教官クビにして、ラグビー部専属にさせますよ」 「しょぼーん」 少尉は肩を落とした。 が、その日の夜、近所の頭陀屋で借りてきた青春スポーツドラマ(昭和感満載・美少女マネージャー付き)を観て、彼女の心に火が点いた。 今までは、鉄パイプを持った不良が屋上で殴り合い、教師がそれを正拳突きで止めるような「鉄と汗と怒号のドラマ」ばかりを観ていたブロント少尉。 だが今回見たのは違う。少年日曜日的爽やかテイスト。 ひたむきな努力を支える美少女マネージャー 夕陽のグラウンド レモネードの差し入れ そして、恋に揺れる心…… 「ちょ、ちょっと待て。グラウンドに立つだけが青春じゃない……支える者にも、そこに熱い想いがあるなど……認識の外だった……ッ!」 ブロント少尉は、拳を握ると謎の決意表明を。 「私も、なってやる……伝説の、マネージャーに!」 次の日、自室のキッチンでご機嫌で何かを作っているブロント少尉。 「やっぱり、青春は、レモンの味よね」 輪切りにしたレモンを、ピッチャーにつっこんでいくブロント少尉。 突飛な言動に反してその手つきは意外と丁寧で手慣れている。 「う~ん!!すっぱい!! 青春の味ね!!」 そして午後、斜めになったお日様が照らすグランド。。 ラグビー部員たちは黙々と準備運動をしていたが、誰もが一様にちらちらと視線を向けていた。 理由は一つ。 そこに立っていたのは、**金髪ポニーテールの美少女教官(※ブルマ姿)**だったからだ。 白地にネイビーのラインが入った半袖Tシャツ。 そして、ネイビー色のハイレグ気味のブルマ。 首にはタオル。 完璧なまでに「昭和の美少女マネージャー」そのものである。 だが、問題は一つ。 それがブロント少尉だということだった。 「おい、やっぱあの人来たか、めっちゃ似合ってるけど、少尉だぞ……?」 「何かが……起こる……」 部員たちは察していた。見た目はかわいいが、あれは災厄を呼ぶ美少女。 魔を纏った存在。 それはあたかも、“死神のマネージャー”ブロント。 試合が始まった。相手は強豪校。どんどん点差をつけられていく。 「くっ……くそっ……!」 グラウンドに汗が散る。 誰もが重い空気に押しつぶされそうになっていた。 そして、ハーフタイム。 「みんなー!!」 声が響いた。 視線の先、ブロント少尉が泣き笑いの表情で、両手にピッチャーを抱えて立っていた。 「わたし、頑張ってレモネード作ったの! 飲んで、元気出して! アンジェ、応援してるから……!」 きらきら光るレモンスライスが浮かぶピッチャー。そして満面の笑み。しかし—— 夕焼けの空が不穏だった。 雲が波打つように揺れ、空の紫が染みるように沈んでいく。 ふと、その雲の形が—— 「……死神の顔に見える……」 そう、誰かが呟いた。 ——背後に死神を従えているような、禍々しい光景。 ラグビー部員たちは、レモネードを飲みながら、死を覚悟した。 だが、恐怖はたまに有効なことがある。 「よっしゃああああああ!! ぶっ潰すぞぉぉぉ!!」 「少尉のレモネード……飲んじまった以上、もう戻れねえ!!」 背中に死神を背負ったラグビー部が、鬼神のごとき追い上げを見せる。 「なんだあれ……なぜ急に動きが……!?」 「むしろ怖いのはマネージャーじゃないか!?」 相手チームは混乱。ピッチサイドで声援を送るブルマ姿の金髪美少女(中身ブロント少尉)に視線が釘付けになる。 ——結果、大逆転。 ラグビー部は、奇跡の勝利を収めた。 帰り道。 「よかった、レモネード飲んでみんな頑張ってくれたのね。これこそ青春ね!!」 満足げに笑うブロント少尉。その背後の夕焼け雲には、またしてもぼんやりと骸骨のような顔が浮かんでいた。 それは、次なる伝説の予兆か。それとも——