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公園デート ―職質戦線異状あり―

今日は休日――の、はずだった。 正午過ぎ、士官学校の食堂裏でラーメンの自販機に小銭を入れようとしていたところに、ブロント少尉がやってきた。セーラー服姿で。 「候補生、デートするぞ」 「……はっ?」 耳を疑った。いや、目も疑った。なんでセーラー服!? なぜジャングルブーツはそのまま!? でも、金髪ポニテが風に揺れて、やっぱり美しい。 (しょうい……似合ってるでぶ……! だが正気かでぶ!?) ■ □ ■ 午後三時、公園のベンチ。 ぼくは少尉と並んで腰かけていた。見た目は高校生カップルぽい。 ただし、少尉が軍用ポーチと双眼鏡と無線機っぽい謎の機材を腰から提げていなければの話だ。 「……見ろ。富士見軍曹と教頭が、あそこで合流した」 「えっ、あのスーツ姿の……って、たしかに軍曹と……え? 尾行、するんでぶか?」 「うむ。非常に気になるではないか」 「……?」 一瞬、少尉が自分の口から出た言葉に眉をひそめた。すぐに訂正する。 「……いや、二人の間でどの様な接触が監視しないとならぬ。教官として、同僚の行動と上層部の交友は把握しておくべきだ。よってこれは任務である」 (出たでぶ。少尉の斜め上ロジック……!) しかし、その姿勢は堂々としていた。 堂々としすぎて、説得力が生まれてしまうのが怖い。 「それで、ぶくとデートするというのは……?」 「変装だ。ありきたりの学生カップルという偽装により、尾行の発覚を防ぐ」 (しょうい……堂々とカップルって言ったでぶ……!?) ぶくは頬が火照るのを感じながら、それでも任務(?)に従っていた。 ■ □ ■ 不運は、その数分後に訪れた。 「……ちょっと君たち、何をしているの?」 警察官が背後から現れたのだ。制服姿、階級章からして巡査部長。 「その双眼鏡……ずいぶん本格的ですね? そしてその装備。なんに使うんです?」 少尉は一瞬きょどりながらも、すぐに直立不動の姿勢を取る。 「知り合いの身を案じてのことです。やましいことはありません!」 「学生証を見せてください」 「持ってません!!」 「……本当に学生ですか?」 「違います!!」 (ちょ、ちょっと待ってでぶ!?) ついぼくも慌ててしまった。 「ぶっ、ぶくは! ぼくは本物の学生です!  しょ、少い・・・・・、彼女は確かに学生ではないですけど本物でぷ!」 (あっ、なんで余計なこと言ったかもでぶ!!) 巡査部長の目が細くなる。 「ちょっと交番まで来てもらえますか」 (終わったでぶ……!) ■ □ ■ そのとき、公園の入り口から歩いてくるふたりの姿が見えた。 スーツ姿のナイスミドル風男性と、ボブヘアの小柄な美女――教頭と富士見軍曹だった。 「あー……巡査部長。それ、うちの教官です。士官学校に所属してるのは間違いありません」 富士見軍曹が申し訳なさそうに言う。教頭はサングラス越しに無言で頭を下げた。 「……いつもこんな感じで?」 「いつもこうです。申し訳ありません」 お巡りさんは眉をしかめながら、ひとつため息をついて帰っていった。 ■ □ ■ その後、ぼくたちは軍曹に軽く叱られ、教頭には無言の圧をかけられながら、噴水前で解散させられた。 しかし、最後に少尉はぼそっと呟いた。 「完璧な変装だった。見つからずに済んだ」 (いやいやいや、完全に捕まってたでぶ……!) だけど―― (さすがしょういでぶ。軍神でぶ。斜め上の可愛さと、天然と、正々堂々さと、全部入りでぶ) ぼくは心の中で、胸に手を当ててひっそり誓った。 次の作戦も、絶対ついていくでぶ、と。

さかいきしお

コメント (4)

Anera
2025/05/24 20:36
みやび
2025/05/24 19:36
九一
2025/05/24 17:57
なおたそ
2025/05/24 17:51

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