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ビニール傘、ジープとカエルと少尉殿

降りしきる雨の中、ブロント少尉はいつものように訓練帰りの構内をずんずん歩いていた。 「少尉、傘を!」 後ろから走り寄る福井曹候補生(元キモオタ26歳男性、今でも小太りのフツメン)が、ビニール傘を少尉の頭上に差し出す。 自分はびしょ濡れになりながらも、それを意に介さぬ顔だ。 「候補生、教官は雨に濡れるのなど平気だぞ」 「ぶっ、ぼっ、自分がやりたいだけであります!」 「……好きにしろ」 そのまま歩き続ける少尉。が、次の瞬間、足を止めて言い放つ。 「候補生、送っていくぞ。車に乗れ」 指さした先には、どう見ても博物館級のボロボロ軍用ジープ。 第二次世界大戦の遺物にしか見えないが、しっかりナンバーは付いている。 「えっ、この車、屋根が……?」 「そんなもの有ったら、視界が悪いだろうが。さあ乗れ、荷台だがな」 びしょ濡れの中、傘を片手に荷台に乗る福井。ジープが爆音とともに動き出す。 「いくぞ~~~ッ!!」 土砂降りの中を爆走するジープ。舗装もクソもない道なき道を跳ねながら突き進む。 福井は風圧と振動に耐えながら、それでも運転席の少尉の頭上に傘を差し出し続ける。 「しょっ、少尉!! 速すぎるであります!!」 ガタガタ、ガコン、ジャボーン! 沼地に突っ込みながら進むジープ。 傘は煽られてひっくり返り、めくり上がって視界を遮る。 そんなことを一切お構いなしに、アクセルを踏みまくるブロント少尉。 が、次の瞬間。 「ぴょーん」 ――カエルである。いや、カエル様である。巨大アマガエルが、少尉の顔面にダイブ。 「きっ、きゃあああああ~っ!? かえるうぅぅぅ!!」 急ブレーキ! ジープが土砂にタイヤを取られながら止まる。 勢いでシートベルトのない運転席から、少尉の身体がふわっと浮きかけた。 「少尉ッ!!」 福井は迷いなく傘を捨て、浮かびかけた少尉の身体を椅子ごと抱きしめる。 雨の中、車は止まり、少尉は辛うじて田んぼへのダイブを免れた。 顔面にカエルを貼り付けたまま。 「候補生……感謝する……」 少尉はそっと顔のカエルを引っぺがし―― 「だけど、そろそろ放してもらえるかしら」 「うわぁぁぁっ!? ちょっ!? や、やめ――」 ――そのまま福井の顔にくっつけた。 びたん。 吸盤の張り付きとともに、あまりにも間接的な接触が成立する。 「しょっ……しょっ、少尉と……間接キス……ッ……!」 福井の頭の中で、何かが弾けた。 少尉を守れたこと―― 命令ではなく、ただ自分の意思で動いたこと―― そして……謎の感慨と満足が、胸を満たすのであった。 雨の中、壊れた傘は風に吹かれて遠ざかり、巨大カエルは再びぴょん、とどこかへ跳ねていった。 「馬鹿者・・・・・・」 その言葉は、跳び去ったカエルに掛けられた言葉だったか・・・・・・

さかいきしお

コメント (16)

クマ×娘 D.W
2025/05/28 07:48
九一
2025/05/28 04:13
へねっと

ヲタ候補生がんばれ

2025/05/28 03:32
ガボドゲ
2025/05/28 01:01
翡翠よろず
2025/05/27 23:28
Crabkanicancer
2025/05/27 22:55
T.J.
2025/05/27 22:44
もみ
2025/05/27 22:14

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