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山岳ハイキング訓練 ~オープンtwoシーター強行登山~

──士官学校 夜間呼集 AM2:00 「士官候補生の諸君。今日は楽しいハイキングの日だ!」 ブロント少尉の宣言は、静まり返った宿舎に乾いた破裂音のように響いた。寝ぼけ眼の候補生たちの顔に、戦慄と困惑が浮かぶ。 「装備は戦闘行軍用。登山経路はA-4ルートだ。集合は15分後、校門前」 …A-4ルート。それは士官学校内で“死の谷”とも揶揄される山岳訓練コース。しかもそれを「ハイキング」と言い切った。 出発直後から坂は急で、荷物は重い。汗がにじみ、足取りは徐々に鈍る。しかし、背後からは小気味良いエンジン音が迫ってくる。 ガタガタときしむオンボロの軍用ジープ。そのハンドルを握るのは、黒い詰襟軍服にミニプリーツスカート、軍靴を履いた金髪ポニーテールの少女──ブロント少尉だ。 「歩けない奴はのっけてやるぞォ~?」 荷台を指す。そこには巨大なコンテナがぎっしりと積まれていて、人が乗れる隙間はほとんどない。何より、その笑みが邪悪すぎた。 候補生たちは顔を見合わせ、誰一人として立ち止まらない。むしろ足が速くなっている。 「誰も乗らんのか? おかしいなあ~、サービスなのに」 ジープは、傾斜もお構いなしに、無理矢理登坂を続ける。 ブロント少尉は時折、候補生たちを遠くから眺めてはニヤリと笑い、また別の林道に消えていった。 数時間後── ようやく登頂に近い峠の広場にたどり着いたとき、候補生たちは全員、言葉も出ないほど疲弊していた。 その時、ひときわ鮮やかな声が響く。 「よーし、遅かったな! よく頑張ったぞ!」 視線の先、例のジープが停車している。そして荷台には──大量の弁当。 金属製の軍用食器に雑然と詰められているが、中身は驚くほど美味しそうだ。彩りの良いおにぎり、卵焼き、煮物、漬物、フルーツ。すべて明らかに手作り。 「食え。一時間したら出発だ」 ブロント少尉はジープのボンネットに腰かけ、缶入りのお茶を開けながら候補生たちを見守っている。軽装備の腰装具と、泥だらけのブーツが、彼女のジープでの山道登坂の激しさを物語っていた。 候補生たちは黙って弁当を手に取る。誰かが小さく笑った。それが連鎖し、やがて疲れ切った顔にもかすかな笑みが広がっていく。 ──あのオンボロジープ、ただのおふざけじゃなかった。 この弁当を、ここまで運んでくれたんだ。 「なあ……少尉って、意外といい人かもな」 「気づくの、遅すぎるぞ。あいつが一人ぐらい背負って山登れるって話、知らんのか?」 「でもジープの運転だけは、マジで命懸けだよな……」 どこか誇らしげに食器を磨くブロント少尉を、候補生たちは改めて見上げた。 その背中には、指導官としての厳しさと、仲間への静かな思いやりが、奇妙なバランスで同居していた。

さかいきしお

コメント (9)

うろんうろん -uron uron-
2025/05/03 04:00
翡翠よろず
2025/05/03 00:47
Ken@Novel_ai
2025/05/02 23:35
もみ
2025/05/02 22:47
仮免許練習中

レンジャー五訓

2025/05/02 22:33
ガボドゲ
2025/05/02 22:22
えどちん
2025/05/02 21:59
なおたそ
2025/05/02 15:51

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