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【春のカフェ】志愛さんを探して
江楠さんから彼女のお母さんについての話を聞いた後、私はひとまず顔の広そうな大人の友人として晶さんに連絡を取りました。そうしたら「折角ですのでカフェでお話しましょう。桜一文字も連れて参りますわ」と言われ、指定のお店で待機して二人と合流した次第です。 「お二人とも、わざわざ来ていただいてしまってすみません」 「あら、わたくしが早渚さんとお茶をしたかったのですわ。いつもうちの屋敷でのお茶会ではつまらないでしょうし。ですのでお気になさらないで下さい」 「本当のところは早渚さんが好きだって言ってたお茶菓子を切らしてたので、がっかりさせたくなかったからなんですけど。まあこれは黙っておきましょうか」 「全部言ってますわ!わざとですわね桜一文字!」 相変わらず仲いいなこの二人。というか、今日の花梨さんは私服の雰囲気が大分違うな。 「花梨さん、今日の私服すごく華やかで柔らかい感じがしますね。素敵ですよ」 「ま、まあそれはほら、ライブハウス行くときみたいな恰好って訳にも行かないですし?メイド服で他所のカフェにお邪魔するのもTPOがなってませんし?消去法ですよ消去法」 「嘘おっしゃい。前々から勝負服として準備してたのをわたくしが知らないとでも思いましたの?良かったですわねぇ、気合入れてオシャレをした甲斐あって『素敵ですよ』って言ってもらえて」 「お嬢様ぁ!何でバラすんですかもぉー!」 意趣返しされてる・・・これは早いとこ本題に入らないと、なんやかんやで晶さんと花梨さんのどっちが私の好みなのかみたいな話に派生しかねない。私は江楠さんからもらった写真は一旦出さないままにして、江楠さんから聞いた話を二人に伝えます。 「まぁ・・・それでは江楠さんは20年ずっとお母様を探されているのですわね」 「あの人の調査能力を以てして見つからないってなると、相当難しい捜索なんでしょうね」 二人は神妙な顔で私の話を聞き、江楠さんのお母さんについて案じている様子。私はここで写真を取り出し、二人に見せました。 「これが家を出た25歳当時の姿だそうです」 「若い!というより幼いですね!?」 「玄葉さんよりも更に小柄・・・あら、でもこの方。わたくし見た事があるような」 晶さんの方が、何やら覚えがありそうな顔です。 「晶さん、それ本当ですか?」 「ええ・・・ああ、でも似ているだけの他人かも知れませんわ。わたくしが出会ったのは、真っ白な髪をしていた方でしたので」 「あっ、そう言えば江楠さんが言ってました。いくつかの目撃証言によると、白髪化しているらしいって」 「それなら、この方かも知れません。確か、6年前にフィリピンでお見掛けしたのだったかしら」 6年前・・・かなり前だなぁ。中国、台湾、フィリピン。これだけ国を転々としているなら、今でもフィリピンにいる可能性は低いかも。 「取引先の主催するパーティ会場でお見掛けしましたの。ただその時は、どこの子供か分からなかったもので声を掛けるのは控えていたのですわ。でも江楠さんのお母様という事は、わたくしよりもずっと大人の方だったのですわね」 「パーティ会場で?って事は、もしかすると志愛さんは何かVIP階級の人とコネクションがあるんでしょうかね」 「すみません、そこまでは」 まあ、会話もしてないんじゃ分からないよな。と、今度は花梨さんが口を開きました。 「お嬢様、この志愛さんって方なんですけど。私2年前にインドで見てるかも知れません」 「2年前のインド・・・ああ、IT事業の提携を結んだ時ですの?」 「ですね。車での移動中、お嬢様は後部席で仮眠を取ってたから見てないと思うんですけど。少し私たちの車から離れたところで、道に飛び出した子供を庇って身代わりにトラックに吹き飛ばされたゴスロリ服の女の子がいたんですよね。で、飛ばされた先の民家の窓をぶち破って家の中に転がったみたいなんですが、数分後に何事もなかったみたいに玄関開けて出てきて家の人にペコペコ頭下げてたんですよ。服は塵まみれでしたけど」 「そ、そんな事が」 なんかまたとんでもないエピソード出て来たな。志愛さん行く先々で事故に遭う確率高いなぁ。不幸体質なのかな。 「あの時はもう何かの見間違いだったんだろうって思ったんですけど、早渚さんの話の中に不老不死ってパワーワード出てきたんで。もしかしたら本当に一回死んだあと生き返ったとかだったのかもですね、あれは」 花梨さん、自分でもまだ信じられないって感じの話しぶりだな。まあ、気持ちは分かる。私が目の前で同じ光景を見たとしても容易には信じないだろうから。 「ふむ、これは本腰入れて調べてみましょうか。江楠さんには宿城の一件での恩もある事ですから」 「ですわね。桜一文字、帰ったら早速取引先各社にあたって見ましょう。早渚さん、この写真少々お借りしても?」 「はい、もちろん」 私は晶さんに写真を手渡し、調査をお願いしました。何か手掛かりが見つかるといいけど。 「あの・・・ところで、早渚さん」 「はい?」 晶さんは私の方をちらちらと見ています。何だろう、何か言いたい事があるんだろうか。 「わたくしも、その・・・桜一文字のような服を着た方がよろしかったでしょうか?」 「あっ」 そうか、晶さんは普段のドレス姿だったから、花梨さんの服装だけ褒めてしまった。地味に気にしていたみたいです。失敗したな。 「いえ、晶さんは花梨さんに合わせる必要ないですよ。確かに着ればお似合いにはなるでしょうけど、私からすると普段の晶さんのドレスはこれ以上ないくらいぴったりの服装だと思うんですよね。一番晶さんの魅力を引き出している服がそのドレスなんじゃないでしょうか」 「そ、そうですの?」 「出た、早渚さんの口八丁。じゃあ聞きますけど、早渚さんはお嬢様のスリングショット水着姿とか見ても同じ事言えますかね?」 晶さんの・・・スリングショット水着!?ごくり・・・。 「か、花梨さん・・・それを男に聞くのは、ちょっとズルい、ですよね・・・」 「何もズルくないです。ほらお嬢様、早渚さん即答できてないですよ。エロい服装にも興味津々みたいです」 「な、成程・・・参考にさせていただきますわ」 「しないでくださいおねがいします」 結局私までヤケドする羽目になった・・・。