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【こどもの日】凪の“こども”
「凪く~ん♪」 私がリビングのソファでくつろいでいると、とてとてと小さい女の子がやってきました。小さい手をきゅっと握って笑顔で私を見上げています。 「うわキツ、じゃなくて、可愛いね幽魅」 「今一瞬本音出た!」 幽魅は憤慨しつつロリ形態をやめて普段の外見に戻りました。ついに学生どころか幼女にまで戻れるようになったか。 「で、なぜ子供の姿に?」 「今日は『こどもの日』だからね。・・・ほら、私ってさぁ、凪くんの子供産んであげられないでしょ?」 幽魅は少し誤魔化すように笑うと自分のお腹に手を添えました。 「もうお母さんにはなれないからさ、せめて凪くんと私に娘ができたらこんな感じだよ~っていうのを見せてあげたくって」 「幽魅・・・うん、キツとか言ってごめんね」 そうだよな、私と幽魅はいくら仲良くなっても結ばれる事は決してないんだ。 「でも私、凪くんの子供は見てみたいなぁ。だからさ、私とキスした事とかは気にしないで、普通に生きてる女の子と恋愛して欲しいかなって。もちろんモヤモヤするところはあるけど、死んじゃってて未来のない私が凪くんの未来を奪うのもやだし?こ、個人的には凪くんと瑞葵ちゃんの子供とかすごい可愛いと思うんだよね!」 ちょっと早口の幽魅。やっぱり思うところはあるんだな・・・今後幽魅との距離感はかなり気を付けてないと、うっかり傷つけてしまうかも。 「瑞葵ちゃんとの子供かぁ・・・」 どんな子になるんだろう。私に似ても瑞葵ちゃんに似ても、元気いっぱいスポーティタイプって事は無さそうだけど。家の中でおもちゃで遊ぶのが好きそうだ。 「瑞葵ちゃんに似て笑顔のかわいい子だといいなぁ」 「私は凪さんに似て優しく穏やかな子に育って欲しいです♪」 いつの間にか隣に座っていた瑞葵ちゃんが相槌を打ってくれました。なんか瑞葵ちゃんが突然家の中にいてもあんまり驚かなくなったな、私。 「うわぁ!な、凪くん!瑞葵ちゃんいつ来たの!?」 「いつの間にかいたよ」 「幽魅さん、こんにちは」 瑞葵ちゃんがちょっとずれた方向に頭を下げます。やっぱ見えてないし聞こえてないの不便だなぁ。 「幽魅のすり抜けをオフにしてもらって、全身に小麦粉とかかけたら瑞葵ちゃんにも見えるかな」 「凪くんには人の心とかないんか?」 幽魅が呆れたように口にします。瑞葵ちゃんが苦笑いしながら代案を考えます。 「そうですね・・・こっくりさんみたいなのはどうでしょう?文字を書いた紙と十円玉で伝えたい事を示すんです。ほら、幽霊と相性いい気がしませんか?」 「あ、それいいなぁ!早速作っとこー」 幽魅はそれを聞いて部屋を出ていきました。壁をすり抜けないでドアを開けて出て行ったので、瑞葵ちゃんにも幽魅が出て行ったのが分かったようです。 「でも、私と凪さんが子供を作るにはいろいろ障害がありますね・・・」 「私としてはまず、瑞葵ちゃんのお父さんが怖すぎるんだけど」 見た目と剣の腕がセフィ〇スで『娘に近寄る男絶対に〇すマン』とかプレッシャーの塊すぎる。挨拶に行ったら切り捨てられる未来しか見えない。 「お父さんはおねーちゃんの歴代彼氏さんたちにも厳しい目を向けてましたからね」 「私が今まで瑞葵ちゃんにしてきた事を知ったら、確実にアウトだよね私」 「下着写真を撮る、旅館の同室に宿泊、湯浴み着で一緒にお風呂入る、脇の下に息を吹きかける、脱がせてタオルで体を拭く、後ろからハグ、一緒のベッドで寝る、胸をトントン叩く、お揃いの指輪を薬指にはめる、腕を絡めて公園を歩く・・・数え役満みたいですね♡」 改めて言葉にして並べるとすごい事してるな私達。こんなのもう彼女じゃん。 「もうどっちみちお父さんには許されなさそうですね、凪さん。こうなったらもう先に赤ちゃん作っちゃって事後承諾しかありませんね!」 「隙あらばえっちな展開に持ち込もうとするね瑞葵ちゃんは。それは瑞葵ちゃんの人生にも関わる事なんだから、もっと慎重に」 「凪さん以外の男の人とか、絶対やーです!それとも凪さんは、初めての子供を私との間に作るのは、やー、ですか・・・?」 その聞き方はズルい。私が困っていると、不意にリビングのドアが開きました。 「ピピー。瑞葵さん、聞き捨てなりません。パパの初めての子供はコマメです」 「コマメちゃん!」 「コマメさん!」 コマメちゃんが無表情でそこに立っていました。瑞葵ちゃんは立ち上がり、コマメちゃんと相対します。 「コマメさん、初めての子供って言っても、名付けてもらっただけですよね?」 にっこり笑ってるけど、プレッシャーめっちゃ放ってる。しかしロボットのコマメちゃんにそんな空気は通用しません。 「名付け親も『親』です。それにパパはコマメに『パパ』と呼ばれるのを受け入れています。パパはコマメの事を娘のように思っていると断定していいと計算します」 「あはは。ロボットは人間の娘になれるとでも?そんな計算が成り立つなんて、一回AIリセットした方が良くないですかね?」 「ピピー。パパとのメモリーを否定する事は大変不合理です。対応できかねます」 二人は両手を組み合って腕力勝負みたいな格好になってしまいました。・・・瑞葵ちゃんの腕力に対抗できるコマメちゃんがすごいのか、ロボットのアームパワーと同等の瑞葵ちゃんがすごいのか、一瞬混乱しそうになりました。が、そんな場合ではないと気付きます。 「二人とも喧嘩はやめなさい、怪我しちゃうよ」 「じゃあ凪さんは初めての子供がロボットでもOKなんですか!?」 「ピピー。パパ、コマメはパパの娘ですね?回答を要求します」 あ、藪蛇だったかも知れない。何とか誤魔化さないと。 「えー、まずコマメちゃん。君は私が名付けたロボットだし、AIが組み上げた性格は私をパパだと思ってくれてるのは嬉しいよ。でも血は繋がってないし、コマメちゃんには生みの親が別にいるんだから、私の事は『精神的パパ』だと思ってもらえば」 「せ・・・精神的パパ・・・?」 聞いた事ない単語なのか、混乱している模様のコマメちゃん。私は今度は瑞葵ちゃんに声を掛けます。 「瑞葵ちゃんも、そんなに過敏に反応しないで。コマメちゃんはロボットなんだから、私の実の子供って訳でもないのは理解できるでしょ。愛情というよりは愛着だよ。だから、血の繋がった実の子供とは別枠。愛する女性との間に儲けた子供には、ちゃんと第一子として愛情を注ぐつもりだよ」 「凪さん・・・」 二人は取っ組み合いを止めてクールダウンしてくれました。よかった、乗り切った。 「じゃあ改めて、ベッドに行きましょうか、凪さん♡」 乗り切れてなかった! 「それはまた今度ね!こんな空気感で瑞葵ちゃんとの初めてを経験したくないから!」 「むー・・・まぁ、確かにムードは全然無かったですね。分かりました、また今度で」 ふぅ、危なかった。また今度って事にできた・・・ん?また今度?あっ。