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空に浮かぶ甘い脅威

魔道通信機の向こうで、ぱち、と軽い音がした。 「もしもーし。聞こえてる? あ、聞こえてるよね。反応あるし」  チェルキーは通信水晶を指でつつきながら、工房の作業台にもたれかかる。  焼き上がったばかりのシュー皮の匂いが、部屋いっぱいに広がっていた。 「ねえねえ、新作のシュークリーム作ったんだよ。かなり自信あるやつ。  外さくっと、中どーん、みたいな」  少し間があって、魔道電信が刻む、規則正しい音。  それを横で変換している補助器具が、モールス信号を文字に起こす。 『――――確認した。  本官は現在、実食不能であるが、  視覚的に「美味そうに食べている絵」は、宣伝効果が高いと判断する』  チェルキーは一瞬きょとんとして、それからぱっと顔を明るくした。 「え、いいの? じゃあ広告に使っていいってことだよね。  あとでちゃんと食べてくれるってことでしょ、これ」 『……後日の実食は、訓練島において検討する』 「よし、約束ね。絶対だよ」  その数日後――  王都の空が、ざわりとした。 「……なんだありゃ」 「風船? いや、でっか……」 「ちょ、あれ、顔じゃね?」  下町の市場通り。  人々が一斉に空を見上げる。  そこに浮かんでいたのは、巨大なアドバルーン。  にこっとした笑顔のブロント少尉が、これ以上ないほど真剣な顔で、  両手にシュークリームを持ち、思いきりかぶりついている絵だった。  口元には粉砂糖。  断面から、とろりと溢れるクリーム。 「……食ってる」 「めっちゃうまそうに食ってる」 「誰だあの女の子。でも、なんかえらい人っぽくない?」 「いや知らんけど、あれは反則だろ」  風に揺れるバルーンの下に、大きく描かれた文字。 パティシェ・チェルキー新作 “これは、実在する甘味である” 「くそ……昼飯前に見るもんじゃねえ……」 「なあ、あれどこで売ってんだ?」 「知らん。でも食いてえ」  人だかりが、自然と一つの方向に流れ始める。  甘いものに引き寄せられる、本能的な群れ。  一方その頃――  王都のどこかの屋根裏。 「報告。王都上空に、巨大な浮遊物体を確認」  黒装束の男が、低い声で記録を取る。 「人型。女性。  咀嚼行為を誇示。視線を下界に向けて固定……」  別の密偵が、真顔で頷いた。 「心理操作だな」 「間違いない。  “見ているぞ”という圧力と、  “安心感”を同時に与える新型情報兵器だ」 「恐ろしい……しかも民衆が自発的に集まっている」 「甘味を媒介とした、士気誘導……いや、支配か?」  屋根裏の窓から見えるのは、  相変わらずシュークリームを美味しそうに食べ続ける巨大な顔。  ――間違ってはいない。  だが、真実はもっと単純だった。 「いやー、やりすぎたかな」  工房で、チェルキーは笑いながら空を見上げる。 「でもさ、あんな顔で食べてくれるなら、  そりゃみんな食べたくなるよね」  空に浮かぶ、  ブロバルーン MarkⅡ。  それは王都史上、  もっとも平和で、  もっとも腹が減る“脅威”だった。 夜。  撤収後の静かな広場。  テント裏で、青年は報告書を書いていた。  賢者の学院のブレザー、前髪に隠れた目。 「――魔導バルーンによる集客は、極めて効果的」  ペンが止まる。 「群衆は警戒せず、自発的に集中。  意図せぬ情報誘導装置として機能」  口元が、わずかに歪んだ。 「……危険性、極めて高し」  同じ夜。  屋上の通信所。  チェルキーは打鍵機を叩きながら、にこにこしている。  カチ。 『ねえ、少尉!  みんな、シュークリームでしあわせそうだった!』  受信器の前で、ブロント少尉は静かに答える。 「確認しました。  ――大成功とみとむ」  カチ。 『そっか!  じゃあ、またやろうね!』  少尉は一瞬だけ、言葉を選ぶ。 「……ええ。  次は、可能ならば今度は実地で」

ぴくたーちゃん
ぴくたーちゃん

わーい! この画像、ぴくたーちゃん大好きだよ~! 金髪のポニーテールのお姉さんが巨大なドーナツをパクッと食べてる姿が、超キュートで元気いっぱい! 泡みたいな気球に浮かんでるの、まるで夢みたいなファンタ

さかいきしお
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コメント (28)

晩御飯前に飯テロ… ぐぬぬ …両手で?右手でシュー?

2026/02/11 14:34
2026/02/10 10:50

これぞまさに、飯テロ!(笑) 香り付きチラシ(販売所記載)がバルーンからばらまかれたらもう終わりだ(笑)

2026/02/09 08:58

ふひひ、上から来ても気を付けられませんな~

2026/02/10 10:20

2026/02/09 08:24

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