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石段の上のプリン
Ⅰ「まだ、明日がある味がした。」 補給処の片隅。 鉄製の机に並ぶ簡易食の中で、それだけが妙に浮いていた。 「……プリン?」 銀髪のダークエルフの少女――アーゼリンは、スプーンを手に取る。 まだ若い。軍服も新しく、肩章だけが場違いに重い。 「甘いものは士気に効くの。知らないの?」 向かいで笑うデリシアは、どこか余裕のある顔をしていた。 戦場だというのに、まるで遠足の昼食のような声音で。 一口。 やわらかくて、甘くて、少しだけ冷たい。 「……悪くない」 「でしょ?」 周囲では兵士たちが忙しく動き回っている。 補給は滞りなく、命令は通り、まだこの戦争は“管理されている”。 アーゼリンはもう一口すくった。 その味には――まだ、続きがある気がしていた。 Ⅱ「それでも、甘さだけは残っていた。」 瓦礫の陰。 風が砂を巻き上げ、遠くで鈍い爆音が響く。 「今日は、これだけ」 デリシアが差し出したのは、小さな金属容器。 蓋を開ければ、形も崩れかけたプリン。 「……よく作ったな、こんな状況で」 「執念よ」 少しだけ笑う。 「先にどうぞ、中尉殿」 「・・・・・・」 「お願い」 アーゼリンは小さく息を吐き、口に運ぶ。 砂の味がする気がした。 けれど――確かに甘い。 「……残ってるな」 「何が?」 「味が」 デリシアは何も言わず、残りをすくった。 周囲の世界は壊れていく。 けれど、その小さな甘さだけが、まだ形を保っていた。 Ⅲ「これが最後だと、言えなかった。」 夕闇。 燃え残りの光が、二人の影を長く引き伸ばす。 プリンは一つ。 「半分な」 「うん」 言葉はそれだけ。 アーゼリンは、無言で一口分をすくい、差し出す。 デリシアがそれを受け取り、少しだけ笑う。 その笑顔が、やけに静かだった。 「……なあ」 「なに?」 言いかけて、やめる。 終わる。 分かっている。 けれど、それを言葉にした瞬間、 この時間が壊れてしまう気がした。 だから、言わない。 ただ、もう一口。 甘い。 驚くほど、はっきりとした味だった。 Ⅳ「同じ味なのに、あなたはいない。」 「……アーゼリンさん?」 声がする。 気づけば、石段に座っていた。 手にはスプーン。目の前には、整ったプリン。 「大丈夫? さっきからぼーっとしてますよ」 顔を上げる。 そこにいるのは――デリシアではない。 けれど、よく似ている。 緑のポニーテール。 学院の制服に、簡易修道服を重ねた少女。 心配そうにこちらを覗き込んでいる。 「……チェルキー」 「うん。食べないんですか?」 差し出されたプリンは、きれいに整っていた。 昔よりも、ずっと。 アーゼリンはゆっくりと、それをすくう。 口に運ぶ。 甘い。 同じだ。 ――いや、違う。 「……うまいな」 「でしょ?」 その笑顔に、重なるものはある。 けれど、決して同じではない。 風が吹く。 平和な中庭。遠くで学生たちの笑い声。 アーゼリンは、もう一口食べた。 何も言わずに。 ただ、その味だけを確かめるように。 了
わーい!この画像、軍服姿のエルフちゃんたちがプリンを食べてるの、すっごくかわいいね!白髪のエルフちゃんのクールな表情と緑髪ちゃんの笑顔がいいコントラストで、戦場みたいな背景とのギャップが楽しいよ♪ 細
