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指輪と茶と、講義の作法

夜の学院は、昼間とはまるで別の顔を見せる。  回廊の灯りは落とされ、石造りの壁に沿って伸びる影だけが、規則正しく並んでいた。  資料室の扉が、ほんのわずかに軋む。  誰かがいる。  背の高い人影が、書架の間を滑るように移動していた。  古代語で書かれた文書、暗号化された写本、封印指定の補遺資料。  それらを一瞥し、必要な部分だけを抜き取るように、指が動く。  迷いはない。  手慣れている。  紙片を戻し、元の位置に収め、足音を殺して去っていく。  誰が、何のために、などという説明はどこにもない。  ただ、学院の奥で、何かが静かに進んでいる――それだけが確かだった。  ***  翌日の午後。  東洋風神殿の一角に設けられた茶室は、柔らかな光に満ちていた。  畳敷きの床、低い茶卓、湯気を立てる茶碗。  アーゼリンは、いつもの冒険者然とした装いのまま、場に溶け込むように座っていた。  銀髪のロングヘアが背に流れ、青いマントが静かに垂れる。  左手で茶碗を持つ。  薬指には、隠す気のない指輪。  王家にゆかりのある意匠が、光を受けて穏やかに輝いていた。  向かいに座るシャーリーは、背筋を正し、黒基調のブレザー型制服を崩さない。  金縁付きの赤マント。  細身の体躯に、過不足のない所作。  だが、どこか硬い。  茶碗に伸ばした指先が、わずかに止まる。 「……どうされましたか、シャーリー教官?」  アーゼリンの声は、何の含みもなく穏やかだった。 「顔色が優れぬようだ。何ならヒーリングを――」  一瞬、空気が張り詰める。  だが、アーゼリンは言葉を切った。 「……いや。幸運神の巫女様に、精霊魔法の癒しなど不遜だったな。許されよ」  ただ、それだけ。  それ以上の意味はない。  アーゼリンはそういうつもりで言った。  しかし、シャーリーの内側で、何かが音を立てた。 (――なぜ、今、その言い方を)  思考が一瞬、跳ねる。  その拍子に、茶碗が傾いた。 「あっ――」  次の瞬間、茶が盛大にぶちまけられた。  畳に飛び散る抹茶色。  湯気。  倒れた茶碗。  シャーリーの手が、宙で止まる。  指には、小さく地味な指輪。  光を反射し、否応なく存在を主張する。 「おっ!!」  アーゼリンは驚いたように目を見開き、すぐに身を乗り出した。 「大丈夫か? 火傷は――」  その左手。  堂々とした指輪が、自然に視界に入る。 「おや・・・・・・?」 一瞬アーゼリンの瞳が瞬いた。  意味は違う。  用途も違う。  だが、形は―― 「……」  シャーリーは何も言わなかった。  ただ、息を整えることに全力を注いでいた。  ***  次の講義。  教室に入ってきたシャーリーを見て、学生たちがざわめいた。  両手。  指という指に、指輪。  大ぶりな宝石、小ぶりだが派手なもの、金、銀、色とりどり。  明らかに多すぎる。 「ふひひ、諸君」  シャーリーは上機嫌そうに、教壇に立った。 「大事な物を隠すときは、どうしますかな」 「せ、せんせい……やけに大量の、その、立派な指輪ですね……」 「ふひひ。大抵は見た目だけ豪華で、ありふれた石ですぞ」  両手を広げ、光を反射させる。 「ただ、一つだけ価値の高いものがありますがな」 「あっ、その一番大きなやつの隣……小振りだけど、やけに光が強い……」 「ふひひ。木を隠すためには森の中、と言いましてな」  教室に、なるほどという空気が流れる。  その端で、アーゼリンは腕を組んで眺めていた。  穏やかな顔で、少しだけ首を傾げる。 (……昨日の、控えめな指輪は無いな)  それだけ思い、特に深く考えることもなく、視線を戻した。  講義は続く。  笑い声と、熱心な板書。  誰も、何も、暴かれない。  ただ一人、シャーリーだけが、  守る必要のないものを、必死に守っていた。

ぴくたーちゃん
ぴくたーちゃん

わーい! ぴくたーちゃんだよ! この画像、銀髪のエルフのお姉さんが和室でお茶飲んでる姿がすっごく魅力的だね~! 表情が優しくて可愛らしくて、軍服みたいな服装がかっこよくてドキドキしちゃうよ。光の入り方

さかいきしお
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