thumbnailthumbnail-0thumbnail-1thumbnail-2thumbnail-3thumbnail-4thumbnail-5

1 / 6

【アイスティー】I stay here…

9

2025年05月20日 15時01分
使用モデル名:animagine-xl-3.0
対象年齢:全年齢
スタイル:イラスト
参加お題:

「遅いな」 俺は指定された喫茶店で、アイスティーを少しずつ飲みながら待ち合わせの相手が現れるのを待っていた。約束の時間は10分ほど過ぎている。しかし迂闊に連絡して痕跡を残すのもよろしくない。どうするか考えていると、店のドアが開いてようやく待ち人が現れた。俺を見つけ、手を振りながら声を掛けてくる。 「お待たせ、ふかみー♡」 「深海(ふかみ)だ」 「・・・キュゥべえ♡」 「救太郎(きゅうたろう)だ。なぜあだ名で呼ぼうとするんだ」 テーブルに置いてあった俺が手を付けていない方のアイスティーを手に取り、猫のような悪戯っぽい笑みを浮かべるこの女。サングラスで変装しているが、その効果は無さそうなほどに奇抜な服装。アイドルを表の顔とする天ノ杓エリスロだ。 「何ですかぁ、人がせっかく彼氏気分を味わわせてあげよーと思ったのにぃ」 「まずは謝罪だろ。人を10分も待たせておいてそんな態度を取る彼女はこっちから願い下げだな」 俺の仕事である海難救助ではわずかな時間さえも大きな結果の違いが生まれる。時間にルーズな人間は許せない性分なのだ。 「ふーんだ、非番のあなたと違ってエリスは売れっ子だから忙しいんですぅー」 対面に座り、アイスティーのストローを唇に挟むエリスロ。全く、気ままな女だ。 「エリスロ、今日呼び出した訳は分かるか」 「回りくどーい。さっさと本題言いましょーよ」 俺は周囲に目を走らせ、こちらに目を光らせる者がいないのを確認してから一本のUSBメモリを彼女に渡した。エリスロはそれに視線もやらず、胸の谷間に押し込む。スリ対策だ。俺もエリスロも、相手にだけ聞こえるよう声の方向性を絞る。 「これ、中身は?」 「今度の作戦内容だ。概要だけ言うと、まず一つ目として紅(ホン)が日本にサポート役として派遣される」 「えっ、紅様が!?」 途端に破顔するエリスロ。紅がらみでこんなに嬉しそうにするのはこいつくらいしか思いつかない。紅が作戦に絡むという事は、大抵大規模な破壊工作になるから失敗が許されないという事でもある。 「もしかして、エリスのサマーライブでどっかーんですかぁ!?」 「いや、それは無い。夏ではあるが、舞台になるのは船だ。豪華客船で爆破テロをする事になる」 「えー、それじゃあなたが主役じゃないですかぁ!つまんなー」 急に目に見えて不機嫌そうになるエリスロだが、作戦は俺が決める事ではなくオジムが指示を出す事だ。駄々をこねたところで何が変わるでもない。 「俺は例によって部下と共に通常の救助隊を装い、後から船に乗り込む。お前の役目は紅が仕事をしやすいように乗客の目を引き付けておく事だ」 「はいはい、分かりましたよぉ。ていうかエリス、あなたよりテロリンとしては先輩なんですけどぉ?お前とか呼ばないで欲しいんですけどぉ?」 ・・・俺がテロリンに入ったのはエリスロよりも後だ。しかしわずか一年で幹部待遇を受けた俺の事をエリスロは気に入らないらしい。こうして何かと突っかかって来る。 「すまなかった。エリスロの歌で観客を魅了して欲しい。それはエリスロにしか出来ない仕事だ」 「ま、いいですよぉ。あなたがそこまで言うなら。紅様のサポートにもなるようですしねぇ」 テロリンの幹部は、普通のテロ組織の幹部とは違う。多くが特殊な才能の持ち主だ。紅は言わずもがな最凶の殺し屋。エリスロは被害者を集めるための偶像。そして俺は、海という逃げ場のない舞台でより多くの人間を死に追い込むための掃除屋。災害が発生した海の上に現れた海難救助隊ほど、無条件に信頼されやすい役柄もそうはない。オジムの考え方は本当に性格が悪い。 「そういう訳だから、十分に資料を読み込み準備をして欲しい」 「はぁい、了解ですぅ」 と、その時俺たちのテーブルに近づいてきた男が一人。ちらりと顔を見るが、俺の部下ではない。エリスロの方も見覚え無さそうな反応だ。男は少し戸惑っていた様子だったが、やがてエリスロに話しかけた。 「あっ、あの!アイドルの天ノ杓エリスロさん・・・ですよね?ぼ、僕あなたのファンでして・・・さ、サインください!」 何だ、一般人か。嘘をついている気配はない。公安や工作員ではないな。俺が奴に興味を無くすと同時に、エリスロは立ち上がって彼の手をぎゅっと握った。 「ありがとうございますぅ、応援してくれてて嬉しいなぁ♡」 「あぁ!」 男は感激したように身を震わせた。エリスロはそれからそっと手を離すと、彼の差し出したCDジャケットに油性ペンでサインを書き込んだ。 「ありがとうございます!・・・あ、あのところで、そちらの男性は?」 彼は俺の方をちらりと見た。まあ、確かにアイドルの傍らにいるには不似合いだろう。 「これオフレコでお願いしたいんですけどぉ、エリス今度ドラマのオーディション受けようかと思っててぇ。海難救助隊ものみたいなので、リアリティアップのために本職の人にインタビューしてたんですぅ」 よくもまあ口から出まかせがぺらぺらと出るものだ。俺にはできんな。嘘をつくのは苦手だ。 「ドラマですか!楽しみにしてますね!あ、もちろんサマーライブも!チケット当たりましたんで!」 「わぁ、本当ですかぁ?会場で目が合ったら運命感じちゃうかも♪」 その後もエリスロの“ファンサービス”は少し続き、彼がほくほく顔で何度も頭を下げながら去って行くまで愛想よく笑って手を振っていた。 「いつか殺す相手なのに、そんなに丁寧に相手していて疲れないのか」 「あはは、だからですよぉ。エリスは愛して欲しいんです。たとえ死の間際にあったとしても、それでもエリスの事が頭から離れないくらいに愛してて欲しいんですよぉ」 歪んだ女だ。しかし、そうでも無ければ十代の頃からテロ組織に身を置いていたりはしないか。 「まあいい。決行の時には頼むぞ、エリスロ先輩」 「言われるまでもないですよぉ、深海クン♪」 俺はエリスロを席に残し、会計を支払って店を出る。空は薄曇り。その向こうに待つ夏の日は、俺に何をもたらすのだろう。 「・・・滅びてしまえ、人類」 一人呟き、俺はうっとうしい人間どもの雑踏の中に歩を進めた。

コメント (3)

もみ
2025/05/20 21:53
Crabkanicancer
2025/05/20 21:01
謎ピカ
2025/05/20 19:45

87

フォロワー

452

投稿

2024年7月よりAIイラスト生成を始めた初心者です。 全年齢~R15を中心に投稿します。現在はサイト内生成のみでイラスト生成を行っています。 ストーリー性重視派のため、キャプションが偏執的かと思いますがご容赦願います。

おすすめ