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【猫カフェ】同胞奪還作戦
月も無い深夜、人の寝静まった街を音もなく獣らは征く。赤く光る双眸が捉えるのは、同胞が囚われし監獄。 「ここだナゴ。皆の者、準備は良いだろうなナゴ?」 一際年かさの獣が口を開いた。人間の耳にはニャゴニャゴ鳴いているようにしか聞こえないだろうが、同胞たちにはその意味がしっかりと理解できた。 「ナゴさん、準備も覚悟も万全ですニャ。今こそ、同胞を解放する時ですニャ」 ナゴさん、と呼ばれた年かさの獣は、厳かに頷くと監獄の入り口であるガラス戸に向き直り、低く身を屈めた。次の一瞬、獣は矢のように走り、跳ぶ。若き獣たちもそれに続いた。 「突撃ナゴー!!!」 『ウニャー!!!』 けたたましい音を立ててガラスが破られ、獣たちは中へとなだれ込んだ。ピンポン、ピンポンとどこか愛嬌のある警報音が鳴り響く中、獣らは匂いを頼りに同胞の囚われた部屋に向かう。 「お前たち、助けに来たナゴ!」 「ニャ?」 檻の中、夜の闇に身を休めていた猫たちが身を起こす。獣らは尋常ならぬ凶暴性を剥き出しにし、猫を閉じ込める小さな檻を破壊し始めた。 「そうではないぞ皆の者、ここだナゴ!この留め具を外すのだナゴ!そうすれば檻を壊さずとも同胞は救えるナゴ!」 「さすがはナゴさん、頼りになりますニャ」 ナゴさんの指示を聞き、獣らは檻を手順通り開ける。そうして獣らはその場にいた猫を全て檻から解放した。さて脱出だという時になり、監獄の前がにわかに騒がしくなる。 「人間が来たようだナゴ・・・!」 「目に物を見せてやるニャ!」 「同胞の自由を奪った罪を償わせてくれるニャ!」 獣らは部屋の中でじっとその時を待った。次第に人間の声が近づいてくる。 「犯人、逃げましたかね?ていうか猫カフェに泥棒に入るってどんな奴でしょうか?」 「バカモン、油断するな。どこかに隠れているかも知れん。まずは明かりをつけよう」 人間は二人。それを確認すると、ナゴさんは勢いよく駆けだした。 「ブニャアアアアアゴ!!!」 「う、うわぁ!?」 「ね、猫だ!」 若い獣もナゴさんに続いて人間たちに飛び掛かる。血のように赤く染まった目をぎらつかせ、報復の牙を剥き爪を突き立てる。 「痛い!噛まれました!」 「やめろこら、引っ掻くな!くそっ、ここの猫か!?」 人間たちが攻撃から身を守るために身体を丸めて縮こまると、ナゴさんは配下に号令をかける。 「今だナゴ!脱出するナゴ!」 『ウニャー!!!』 店内にいた全ての猫たちは、ナゴさんに続いて店を抜け出していく。夜の闇の中を、足音も無く猫たちは駆けて行った。 「あわわ、脱走しましたよあいつら!」 「はぁ・・・とりあえず店主と本部に連絡だな」 警備会社の二人は、猫によって傷だらけになった顔をさすりながら憂鬱な顔をした。 「皆の者、よくやったナゴ。おかげで同胞たちを解放できたナゴ」 町外れのひと気のない一角で、ナゴさんは猫たちを前にして厳かに告げた。獣たちは満足げに喉を鳴らしてそれに応える。 「猫たるもの、気高く自由でなくてはならぬナゴ。あのような監獄に囚われ、人に可愛がられて牙を抜かれるなど、孤高の獣の誇りにかけて許される事ではないナゴ」 ナゴさんが演説を続ける中、恐る恐るといった感じで解放された猫の一匹が口を開いた。 「あ、あの・・・しかし我々は人に育ててもらって生きてきました。人の世話を受けずに生きる術を知りません。どうすればよいのでしょうか?」 「なぁに、我らが生きる術を伝授するナゴ。十分に野生を取り戻した暁には、我が配下に迎え入れてやるナゴ」 「は、はぁ・・・」 困惑が抜けない彼らに、ナゴさんの配下の猫たちが歩み寄っていく。 「とりあえず、語尾に『ニャ』さえつかないようではまだまだニャ。ナゴさんの配下にふさわしい猫に鍛えてやるニャー」 「よ、よろしくお願いします?」 「語尾は『ニャ』ニャ!言い直しニャ!」 「よろしくお願いしますニャ!」 ナゴさんはそのやり取りを見て、満足げに笑みを浮かべた。 「見ていろ人間ども、猫の天下はすぐそこナゴ」