【ガーデニング】コマメちゃんは色々覚えたい

「ちょきちょき・・・ちょきちょき・・・」 「？」 私が金剛院邸を訪ねると、庭にある薔薇の生垣の向こうから女の子の声がします。覗き込んで見ると、剪定ばさみを手にしたコマメちゃんが庭の手入れをしていました。 「コマメちゃん、こんにちは」 「ピィー！？パパ・・・！？・・・こんにちは」 何かエラー音みたいなの鳴ったけど大丈夫かな。私がコマメちゃんに近づくと、コマメちゃんはそっと離れて行きます。 「ど、どうしたの？何か警戒してるみたいだけど」 「ピピー。実は花梨先輩に言われました。『いいですか、早渚さんがあなたにお触りを始めとした不埒な行為をしようとしたら、そのはさみでチョッキンしてあげなさい』と」 コマメちゃんは剪定ばさみをチョキチョキ鳴らしながら、私の下半身にじっと視線を注いでいます。私は股間を両手で押さえ、ガチガチ鳴りそうな奥歯の震えを何とか抑えました。花梨さん、ロボット相手にそれ言ったら本当に冗談抜きでやるかも知れないのに何て事を。 「でもコマメはパパをチョッキンしたくありません。なので接触できないよう距離を取っています。えへん、かしこい」 「そっか。ありがとうね、コマメちゃん」 私はコマメちゃんに不用意に近づくのをやめて、コマメちゃんが作業していた生垣を観察します。ロボットが整えただけあって、寸法的には正確に切ってあるようです。正直、見てくれはあまり芸術的ではありませんが。やっぱり、こういうのを作るのは庭師のスキルみたいなのがいるんだろうな。 「コマメちゃんはこういう仕事もするんだね。今は勉強中ってところかな？」 「はい。コマメは完璧なロボットメイドを作る上でのプロトタイプです。ゆえに給仕、清掃、造園、警備など、顧客が求める様々なニーズに対応できる必要があります。不備の見つかった機能はアップデート対象となるため、可能な限り多種多様なお仕事をやる必要があります」 そう言えば、コマメちゃんはそういう目的のロボットだった。って事は、もしかして普段私としてる会話のやり取りなんかも学習データとして研究者たちが議論の対象にしてたりするのだろうか。やだ怖い。 「パパとのやり取りは大変貴重なサンプルです。コマメのAIはそれを元に自主的に必要と思われる知識を収集する事もあります。最近では、男の人の喜ばせ方を学びました」 「ブッ！？」 何言ってんのコマメちゃん！？確か博士がラブドールみたいな目的は想定してないって言ってなかったっけ！？ていうか、そのログが花梨さんに見られてるはずだから、花梨さんからは絶対私がコマメちゃんに悪影響与えたって思われてるじゃん。 「データによると、男の人は変形機構・合体機能や兵装展開をお喜びになります。特に、戦艦大和の46cm砲のような一撃の威力に特化した必殺技めいたものや、ドリル・レールガン・ガトリングのような如何にも機械的なギミックを好むとありました」 「えっ・・・あ、ああ。そう、そうね。かっこいいよね、そういうの」 ダメだ、私の脳みそは腐っている。純真無垢なコマメちゃんのそういう行為を想像してしまうだなんて。 「しかし、これには問題点があります。コマメには変形や合体の機能など実装されておりません。もちろん、先述したような明らかに警備用の範疇を超えたような武装も実装できません。パパ、どうすれば男の人は喜んでくれるのでしょう？」 「あー・・・」 どうしようかな。コマメちゃんは精密機械だから、変形機能なんてつけようとしても恐ろしくコストとかかかるんだろうし、武装しろなんてアドバイスも法律上できない。かといってえっちな事を教え込むわけにもいかないしなぁ。 「もう！また妙な話になってるじゃないですか！」 「あ、花梨先輩」 私が答えに窮していると、花梨さんが現れました。 「どうしてガーデニング中に男の人の喜ばせ方なんて話題が出るんですか！あのまま放っておいたら、『 男の人は女の人を組み敷いてパイルバンカーすると喜ぶんだよ（キリッ） 』とかいうピンクな話に持って行ったんでしょう！」 「そんな言い回し思いつく花梨さんの脳みそも相当ピンクですよ！？」 何だパイルバンカーって！中年のおっさんの発想か！ 「ピピー。花梨先輩は見た目も中身もピンク。覚えました」 「コマメ！あなたって子はもう！余計な事ばっかり覚えて！」 コマメちゃんの発言に花梨さんが大憤慨。これはもう、本題どころじゃ無いなぁ。 「すみません、私はこれで退散します」 コマメちゃんに説教する花梨さんに一声かけて、私は金剛院邸を後にしました。 「志愛さんの手掛かり、何か進展あったか聞こうと思ってたんだけどなぁ」