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【日傘】天ノ杓さんのポスター撮影
今日はフォトスタジオでの撮影の仕事です。依頼主はあの天ノ杓エリスロさん。この間キャンプ場で渡した名刺を頼りにメールを下さり、ポスター撮影のカメラマンをやる事になりました。 「なんかエリスの事務所の人たちに聞いたら、その筋では有名人らしいじゃないですかー。折角なのでお仕事頼んじゃおうかなーって思ったんですけど、ご迷惑でしたかぁ?」 「いえいえ、光栄ですよ。私などの事を覚えていていただけてありがたい限りです」 今回のお仕事は傘メーカーの案件だそうで、夏に向けて新作の日傘が発売されるので、そのイメージキャラクターとして天ノ杓さんが起用されたのだとか。 「私からすると、初めてお会いした時も今もゴシックドレスの印象が強いですからね、天ノ杓さんは。傘と相性のいい服装ですよね」 「ありがとうございますぅ。でもでも、カメラマン的視点から見ると傘って邪魔だったりしませんかぁ?顔とか暗く写りそうな気がするんですけどぉ」 「そこらは照明で調整できますからね。やりすぎると光の加減が不自然になってしまって画像編集ソフトをフル活用しないといけなくなり、素材の良さが失われるので若干調整は面倒ではありますが」 「へぇー、そうなんですねぇ?」 私は天ノ杓さんと会話をしつつ、彼女を撮影していきます。ポスターになるって事は最終的にはほぼ全てが選考から外れる事にはなるのですが、多めに撮影しておいた方が後から問題が起きにくいですし。 「そう言えば、この間入浴剤のCMに出演されているのを拝見しましたよ。髪を下ろしたスタイルも素敵でした」 「えー、やだもう恥ずかしいですよぉ。そう言うの本人に言うのって何かちょっとえっちですねぇ」 ほぼ初対面の人にまでえっち呼ばわりされた。そんな事無いと思うんだけどなぁ。そうこうしている内に十分な量の撮影ができ、天ノ杓さんとスタッフ一同はフォトスタジオを後にします。 「今日はありがとうございましたぁ。夏が近くなったら音楽フェスに出たりもするんで、皆さんもエリスを見かけたら応援して下さいねぇ」 スタッフたちも良い笑顔で頷いています。天ノ杓さんは妙な魅力があるんですよね。多分ささいな仕草とかもあるんですが、一番は声質かも。耳をくすぐる甘えたようなロリ声でありながら、こちらから近づこうとするとするりとかわしてしまいそうな小悪魔めいたトーンもはらんだ不思議な声なんです。 「それじゃあ失礼しますぅ♡」 天ノ杓さんが事務所の車に乗って行ってしまうと、私たちスタッフも解散の運びになります。私より少し年下の照明担当のスタッフが声をかけてきました。 「いや~、エリスロちゃん可愛かったですね!俺早速ファンクラブに入りますよ。早渚さんはどうすか?」 「あ~・・・私はどうしようかなぁ」 もしファンクラブに入って、それが玄葉に知られたりすると何言われるか分からない。 「さすが早渚さん、可愛い子を見慣れてるだけあってガード固いっすね。やっぱプライベートでも何人もの女の子をとっかえひっかえ侍らせてるって噂になってるのはマジ話って事っすか」 「待って待って待って下さい。そんな噂私聞いた事無いんですが」 「え、そうなんすか?早渚さん、毎晩のように別の女の子を抱いてるプレイボーイだって事になってるっすよ」 「根も葉もない嘘だよそれ!私そういう事は未経験だからね!?」 いやまぁ、シリアちゃんや瑞葵ちゃんとの事があるから全くの潔白って訳じゃないんだけど。 「なーんだ、そうなんすか。実は俺、今二人の彼女がいるんすけどね。早渚さんに二股かけるコツ聞こうと思ってたんすけど、ダメかー」 「・・・そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。よし分かった、私には無理だけど他の人に聞いてあげよう。ちょっとみなさーん、彼にアドバイスをー!」 その後私がその場のスタッフ一同に彼の二股の事を話したら、彼は先輩スタッフにヘッドロックされたまま連行されていきました。 「二股をかけるのは良くないな。うん、実に良くない」 私は一人呟き、彼を顧みる事も無く家路につくのでした。