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悲しい涙では逝かせない

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2025年03月16日 15時00分
使用モデル名:animagine-xl-3.0
対象年齢:軽度な性的、流血描写あり
スタイル:イラスト
デイリー入賞 111

夕闇に包まれ始めた町を、私はひたすらに走りました。流石に33歳ともなると若い頃より体力が落ちているのを感じますが、泣き言を言ってはいられません。T山へ向かう途中、何度か遠くで爆発音が聞こえました。紅と江楠さんたちが戦っているのかもしれません。 T山に着くと、早速登り始めます。登山用装備もなく、登山家でもない私なので夜を迎えると危険です。幽魅のスニーカーが見つかったのは尾根に差し掛かるあたり、つまりかなり山頂に近いはず。最短で山頂に向かうべく、スマホのライトで道を照らしながら持久走のようなスタミナの使い方で駆け上っていきました。途中には吊り橋などの危険地帯もあるので、紅と遭遇するのとは別の意味で危険です。 40分ほども登った頃でしょうか、視界が開けて夜の町並みが遠くに見えます。そして、登山道を外れた丘のような場所には、私が捜し求めた彼女の姿がありました。 「幽魅っ!はぁ・・・はぁ・・・」 「えっ・・・な、凪君!?」 振り向いた幽魅の腕には、大きな花束が抱えられていました。瑞葵ちゃんが見たのはきっとこれだったんだ。お金を持っていない幽魅の事、どこか自然に自生していた花を手折ってきたのでしょう。だから昼間は町中で見つからなかったんですね。 「良かった・・・追いついた」 「凪君、どうしてこんなところに・・・?もう夜だよ、普通の人がそんな軽装でこんなところ来ちゃ危ないよ・・・」 幽魅は私の姿を見て驚き、そして少し距離を取ったような調子で私を心配する言葉を口にします。確かに幽魅の言う事は正しいですが、今回はそれを曲げてでも幽魅に会わなければならなかった。あんな悲しい涙を最後に、幽魅が私と玄葉の前から消えてしまうのはどうしても納得できなかったのです。 「幽魅に会いにきたんだ。瑞葵ちゃんが空を飛ぶ花束を見たって私に教えてくれたから」 「そっか・・・見つかっちゃってたんだね」 幽魅は手元の花束を見下ろし、丘の端にある崖に近寄っていきます。私も登山道の手すりを乗り越え、ゆっくり慎重に幽魅に歩み寄っていきました。 「今凪君が通ったところにテントがあったんだ。その中で恋人と二人、寝袋に入って寝てた」 キャンプに来た時の事を思い出すように、幽魅が口を開きます。 「誰かがテントに入って来るような気配がして、その後で彼の絶叫が聞こえた。誰かが、刃物で寝袋越しに彼の四肢を切り裂いているのが分かった。私は慌てて寝袋から抜け出して、テントを出て走って逃げようとしたんだけどね」 幽魅が一度こちらに戻り、その時の再現のように歩き出します。数歩も行かない内に、幽魅はその場に座り込みました。 「寝起きだったのもあって、ここで転んじゃった。起き上がろうと振り向いたら、大鎌を構えた女の子と目が合った」 大鎌を構えた・・・女の子。まさか。 「シリアちゃんって言ったっけ。江楠さんのオフィスで出会ったあの子だった。冷酷な笑顔のまま、あの子は私の頭に大鎌を振り下ろした。多分、その時に脳みそをやられたから私には記憶が無かったんだと思う」 「シリアちゃんが・・・まさか、そんな」 でも、考えてみればその方がしっくりくる。シリアちゃんを知れば知るほど、あれはコスプレなんかじゃないって思えていた。でも彼女が殺人鬼だと認めるのが怖くて、見て見ないフリをしていたのかもしれない。幽魅が前にシリアちゃんを見た時に訳も分からず怯えていたのは、自分を殺した犯人だと無意識に分かっていたからか。私がそんな風に考えているうちに、幽魅は今度は崖際に歩いて行った。 「その後、ここから落とされたんだと思う。動物や雨の影響で体や血痕が処理されて、捜索した時点じゃ見つからなくなってたんじゃないかな」 どこか虚ろに笑いかけながら、私を振り返る幽魅。そして、持っていた花束を崖下に放り投げた。 「これは手向けの花。私と、恋人だった彼への。ああ、あとシリアちゃんも入れてあげてもいいかも」 「えっ」 「シリアちゃんね、あの路地裏で凪君を逃がした後に紅に爆弾でやられちゃったんだ」 あの後・・・シリアちゃんが死んだ?嘘だ、そんな。でも、幽魅がそんな嘘を言う意味はない。 「凪君、自分の日常に帰った方がいいよ。殺人鬼とか、テロリストとか、私の事とか。全部もうなくなるから。普通の日常に戻れるよ」 「やっぱり幽魅も消えるつもりなの?」 かすかに頷き、幽魅は崖下を覗き込みます。そしてこちらに向き直りました。 「自分が死んだ場所でなら、幽霊としての私も死ねると思うんだ。いつまでもこの世にいちゃいけないでしょ、死んだ人間なんてさ。まして生前犯罪者だもん」 「幽魅」 言葉を続けようとする私の唇に人差し指を置いて黙らせると、幽魅はゆっくり後ろに倒れていきます。 「さよなら、凪君」 「幽魅!」 (さよなら、好きだったよ、凪君) (でもこの気持ちは口にしたら呪いになってしまうから) (だから、何も言わないでいくね) 必死に伸ばした手は、すり抜ける事無く幽魅の手を強く握りしめた。私は全力で彼女を抱き寄せ、逃がさないよう肩を抱く。 「逝かせない!勝手に一人で納得して消えるなんて許さない!残された人間の気持ち考えろよ!」 「凪君、だめだよ」 幽魅の目尻に浮かんだ涙。これはまだ悲しい涙だ。せっかく不死身なんだから、消える時にはせめて幸せだけ抱いて消えて欲しい。そしてこれは私のわがままだけど、願わくば私や玄葉と共に天に昇って欲しい。だけどそんな想いを一つ一つ説明している間に、幽魅がすり抜けて逃げるかもしれない。だから私は。 「んぅ!?」 そんなありったけの想いを乗せて、幽魅と唇を重ねた。もちろん、不意打ちの私の唇は彼女の唇の感触を覚える事はない。だけどそれでいい。大切なのは触れ合う事ではなく、想いを伝える事だから。 「凪君、だめだよ!」 実体の無い幽魅は、キスされていても口を塞がれる事無く叫ぶ。私は構わず、幽魅の唇の位置に自分の唇を合わせ続けた。その内、幽魅は諦めたように力を抜いてしまった。 「こんな事されたらさぁ・・・置いて逝けないじゃん。消えられないじゃん・・・」 幽魅が大人しくなると、私はそっと身体を離した。繋いだ手はそのままにして。 「帰ろう、幽魅。玄葉も待ってる」 「・・・うん」 帰り道、ずっと幽魅は顔を真っ赤にして自分の口を右手で隠していた。私も冷静になるとすごい大胆な行為をしてしまった事を自覚し、耳まで熱くなってくる。それでも、繋いだ手を離すことは考えなかった。春先の夜風は涼しく、火照った顔を冷ますには丁度良いのだがそれでも顔の赤みが引くまでどれだけかかるやら。 「お兄、幽魅さん!」 「玄葉ちゃん・・・!」 家に着くと、玄葉が待っていてくれた。玄葉が何も言わず幽魅の胸に飛び込むと、幽魅も泣きながら玄葉を抱きしめて応える。今、二人の頬を伝う涙は悲しい色をしていない。 「・・・おかえり、幽魅」 「うん・・・ただいま、『凪くん』」

コメント (7)

thi

とうとう幽霊までたぶらかすのですね

2025/03/19 13:07

早渚 凪

誑かすの自体は以前からちょいちょいやってましたけど、ここまで決定的なアクションを起こしたのは今回が初ですね

2025/03/19 22:12

五月雨

幽魅ルートのトゥルーエンドですわね! 次は紅エンドを

2025/03/17 13:44

早渚 凪

凪「紅エンドは無理でしょ!あの人間を羽虫程度にしか考えてない紅ですよ!?そもそもあいつに愛なんて感情あるかどうかも怪しいじゃないですか!」 幽魅(どっちが攻めなんだろ・・・?順当に行くと紅が攻めだけど、凪くんが紅をよがらせるのもアリよりのアリかも・・・!書いちゃおうかなBL同人誌)

2025/03/17 15:16

Jutaro009
2025/03/17 12:52

早渚 凪

2025/03/17 15:11

水戸ねばる
2025/03/17 08:13

早渚 凪

2025/03/17 15:11

もみ
2025/03/17 04:19

早渚 凪

2025/03/17 15:11

サントリナ
2025/03/17 02:57

早渚 凪

2025/03/17 15:11

白雀(White sparrow)

まずは1つの決着は着いたみたいでよかったです。でもキスしたって他の女性陣に知られたら……今回以上の修羅場になったり…?

2025/03/16 21:49

早渚 凪

凪「修羅場・・・桃宮ちゃんや橙臣ちゃん、江楠さんあたりはまあ良いとして、玄葉は確実にキレるし晶さんたちには何て言われるやら。一番怖いのは瑞葵ちゃんですね。どういう反応するのか全く読めない」

2025/03/17 15:11

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2024年7月よりAIイラスト生成を始めた初心者です。 全年齢~R15を中心に投稿します。現在はサイト内生成のみでイラスト生成を行っています。 ストーリー性重視派のため、キャプションが偏執的かと思いますがご容赦願います。

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