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【アニメマラソン】今夜どう?
夜も深まり、そろそろ寝ようかと思っていた頃、幽魅が部屋を訪ねてきました。 「どうしたの幽魅、何か用事?」 「うん、凪くんのPCってさぁ、アニメのDVD再生できるよね?」 幽魅は服をめくってお腹のところからDVDのパッケージを取り出しました。タイトルは『軌道鉄道コンヤドウ』。 「ここまではOK?」 「ええとつまり、私のPCでアニメ見たいって事かな?」 「そうなんだよー。今日玄葉ちゃんと中古屋で見つけたんだ。生前気になってたけどDVD出回ってる数が少ないし配信サービスにも出てこないしで、見れなかったんだよね。だから今夜一気見させてほしいなぁって」 こくこくと頷く幽魅。私は幽魅からパッケージを受け取って裏返してみます。4枚組で1枚に3話入り。1話が23分40秒と考えると・・・284分。それに加えてディスクの読み込みや入れ替えにかかる時間が1回2分程度として3回入れ替えるから6分。足して290分かぁ・・・ほぼ5時間。長いなぁ。 「まあ、幽魅は睡眠欲ないもんね。どうぞ、使っていいよ」 「うん、凪くんも一緒に見よ?今夜は寝かせないぜ☆」 幽魅は今度はポップコーンの容器を取り出しました。嘘やん。 「私も見るの!?」 「だって一人で見ても語り合えないじゃん。玄葉ちゃんはホラーゲームの深夜配信してるしさー、相手が凪くんしかいないんだよね」 「・・・ちなみにさ、私が途中で寝落ちしたらどうする?」 「起きるまで一本ずつ髪の毛抜いてく♪」 地味に嫌な攻撃を宣告された。しょうがない、付き合うか。明日は仕事も入ってないし。 「コーヒー淹れてくるね」 「へーい」 現在11話目ですが、意外と悪くない作品です。衛星軌道上をパトロールする鉄道型宇宙船『コンヤドウ』が侵略者と戦うSFアニメで、コンヤドウは敵と戦う際には人型ロボットに変形するのでロボットアニメでもあると言えるでしょう。 侵略者は別の銀河系からやって来たとされていますが、ほぼ同規格のロボットで襲ってくるので『宇宙を舞台にした、人型ロボット同士の激しい戦闘シーン』がほぼ毎話あります。ここの作画が特に気合入ってるようで、スタイリッシュなアクションや舌を巻く戦法をするコンヤドウはかなりカッコいいです。相手も負ける度前回の反省を活かして戦術を変えてくるので、同じような戦闘シーンにならない所も飽きさせないポイントか。コンヤドウの“コン”はコンバットの“コン”なんですね。 また、コンヤドウ乗組員同士が方針の違いで内輪もめしたり、侵略者側の裏切者がコンヤドウと手を組もうとするなど、ヒューマンドラマもちゃんと描写されてます。気になるキャラも多いし、正直これ12話じゃなくて26話くらいで構成してもっと丁寧に脚本を書いても良かったんじゃないかって思います。 「これ、何で市場に出回ってる数少ないの?」 「何か権利の問題で揉めたらしいよ。それで配信サイトにも来ないし、DVDも初回生産分しか無いって」 もったいない話です。きっとアニメファンの間ではかなりレアものなんだろうな、このDVD。 「敵もかなり減って来たね。コンヤドウ勝てるよね、凪くん」 「どうかな・・・コンヤドウもボロボロだし。ああ、ほらやっぱり。パイロット一人だけ残して残りは母星に戻って迎撃態勢を整えるみたいだ」 作中では、主人公たるコンヤドウのメインパイロット一人を前線に残して、他の乗組員は脱出艇で母星に戻るようです。これは実質的に、主人公一人を囮にして時間稼ぎをさせる作戦と言えます。ヒロインであり主人公の恋人でもある女性は別れの予感に涙し、主人公と最後の夜を過ごします。 「・・・あ、あれ?こういうシーンカットしないんだ」 「そう、みたいだね」 熱い抱擁とキスシーンくらいかと思ったら、服を脱がしあい、愛を確かめ合い始めてしまいました。構図を工夫してモザイク描写がいるようなところは描かないようにしてるけど、洋画のベッドシーンくらいの性的描写になってます。そしてここも作画が良い。 「ひゃ、ひゃぁ~・・・」 隣をちらりと見ると、幽魅は口元を押さえて顔を赤らめています。幽魅の方もなんとなく私の反応を伺っているようで、少し気まずい。その内に問題のシーンは終わり、主人公は最終決戦に赴きます。・・・最終的に主人公は侵略者に敗北、コンヤドウも破壊されてしまいますが、母星の迎撃部隊が攻め込んできた残りの侵略者をなんとか撃破。主人公が時間を稼いでいなければ、母星も敗北していたかもしれないと思わせる、絶妙な加減で描かれていました。最後に数年後のシーンが描かれ、主人公によく似た幼い少年を連れたヒロインが主人公の墓に手を合わせて感謝を述べるシーンで幕引きとなりました。 「いや~・・・予想よりずっと良かったなぁ」 「そうだね、私も結局寝落ちしなかったしね」 しばらく幽魅との話題はこのアニメ出るかもしれない。バトルもドラマも上質だったけど、やっぱり一番インパクトあったのはベッドシーンだなぁ・・・まさかアニメで出てくるとは思ってなかったのもあって印象に残っちゃう。幽魅も同じように思ったのか、見ると顔が赤い。 「と、ところで凪くんはさぁ、ああいう、その、え、えっちなシーンっていると思う?」 「うん、私はいいと思った。あ、いやヒロインの裸が見たいとかじゃなくってさ、あれは脚本上で必要だからちゃんと描写した部分だと思うんだよね。二人の最後の夜をしっかりと見せる事で、あの二人の絆の強さを視聴者に印象付けたんだと思うよ。もしあれが延々と愛の言葉を交わし合うようなシーンだったら、最終回の印象とかも変わっちゃったんじゃないかな」 「真面目視点」 肩透かしを受けたような顔の幽魅。もしかして私が興奮して襲い掛かってくるとでも思ってたのか? 「幽魅の方はどうなのさ。ラブシーンはいらない派?」 「い、いやぁ・・・凪くんの言う通り、このお話には必要だったかも。でもやっぱりちょっと気まずいよ、あんな風に迫られたらどうしようとか考えちゃうよ、凪くんの部屋で二人きりなんだしさぁ・・・」 言われてみれば、確かにここは私の部屋。ベッドだってあるし、状況は整ってます。 「でも幽魅、性欲ないんでしょ?」 「性欲なくてもドキドキはするんだもん、羞恥心だってあるしさぁ」 「脈拍ないのにドキドキっておかしくない?」 「知らないよそんなのー!だって恥ずかしいと顔が赤くなったり脈が早くなるとかって理屈じゃないじゃん!」 幽霊の体の事はよく分からないけど、生前の感覚で勝手に体がそういう感覚を感じてるのかな。 「顔の赤さは分かるけど、脈拍は分かんないな。ちょっと触ってもいい?」 「えっ・・・そ、それってつまり、『今夜、どう?』的な・・・?」 私はその問いには答えず、そっと幽魅に手を伸ばしました。次の瞬間。 『ピピピピピ!』 私と幽魅はびくっとして動きを止めました。私のスマホに設定された目覚ましアラームです。・・・いつの間にか朝だった。そりゃそうか、5時間アニメ見てたんだもんな。 「あ、朝になっちゃったねぇ!凪くん、私行くね、ありがと!」 「あ」 幽魅はDVDを回収すると脱兎のごとく部屋を出て行ってしまいました。 「・・・首筋触り損ねた」 まぁいいか。幽魅押しに弱そうだし、また折を見て迫ろう。