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【目】“悪魔”の『目』
「さぁて、この町の主要な連中は大体掌中に収めた事だし、後はテロリンの動きを気にしておかないといけないねェ」 江楠真姫奈は、事務所として借りているオフィスで一人目を光らせた。彼女の脳内では数多のパターンがシミュレートされており、国際テロ組織テロリンがここでどういう活動をしようとしているのかも大体読めている。それを防ぐための策も、もちろん多数張り巡らせた。 「しっかり働いてくれたまえよ、私の『目』となる者達よ」 他人の秘密を握って脅迫し、秘密をバラさない代わりに情報を提供させる。江楠真姫奈の常套手段だ。とはいえ、地元関西で無い分多少速度や精度が落ちるのは否めない。それに何より、真姫奈にはこの町ならではの不安要素が気にかかっていた。 「早渚兄妹と藤巳幽魅・・・近い内に兄の方に接触する必要がありそうだ。幽霊となった藤巳幽魅に対し相互コミュニケーションが取れるのはあの二人だけ。藤巳幽魅をちゃんと見張っていてもらわないとならないからねェ。間違っても、藤巳幽魅が『紅(ホン)』と接触するような事があってはならない」 今のところ、この町に紅が現れたという情報はなく、杞憂に終われば一番良い。しかし経験から言って、真姫奈は状況が最悪に転ぶケースの多さを知っていた。想定は常に最悪のケースをなぞっておく必要がある。特に、テロリン相手に後手に回るのは致命的な痛手を負う可能性があまりにも高い。 「全く、面倒な事になったものだ。シリア君め、もう少しだけ藤巳幽魅を殺すのを待っていてくれれば良かったんだがねェ」 真姫奈はデスクに向かい、早渚凪へ伝える情報の精査に取り掛かる。何を伝え、何を伏せるか。どうやって自分の意のままに動かすか。 「早渚君を脅迫すると藤巳幽魅に関する事で何かあってもこちらに情報が来ない可能性があるからなぁ。できれば脅迫無しで何とかしたいねェ」 夜は更けていき、真姫奈の瞳はなおも怪しい輝きを帯びる。その目の奥に、彼女はどんなシナリオを描いているのだろうか。