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煩悩で突け!!
「う~ん、さすがにすごい人ごみですね」 大みそかの、除夜の鐘が鳴り響く中の境内だ。一年で一番混むと言って過言ではない。 「そうですね……」 (この天然娘はどこにいてもどんな人ごみでも目立つわね) お目付け役の富士見二等軍曹は、複雑な思いで頷く。 金髪碧眼なのに、やわらかな顔立ちと大きな瞳、きめ細かな肌と細身でしなやかな身体付きはやけに振袖が似合っている。 目立つことこの上ない。 ちらちらと男性客はおろか、女性客まで振り返っている。 「あっ!!あれは!!」 ブロント少尉が、歓声をあげる。 「ちょっと突いてきますね!!願いがかなうんですよね」 「ちょっ、ちょっとやめなさいよ。はた迷惑でみっともない!!順番決まってるんですから!!」 非常に目立つブロント少尉の奇行に、周囲の参拝客はおろか、鐘突きの順番待ちをしている人達まで注目している。 厳かに順番を待っている人々の中に乱入するなどとんでもない。 さらに、ブロント少尉が、釣鐘をどんな勢いで突くか予想がついている軍曹は慌てて止めるが。 そのタイミンクで 「ひゅ~!!」 パチパチ。 「おめでとうございます」 周りの人々の様子が変われる。 「あちゃあ、間に合わなかったかしら」 良かった…… 「少尉、新年おめでとうございます」 軍曹は日本人らしく、和服姿で正しく少尉に新年を祝う。 「あっはい。軍曹、おめでとうございます」 こちらも、見様見真似だけど、日ごろから鍛えられて挨拶敬礼にはなれた身、日本人以上に正しく礼をとる。 「今年もよろしくお願いしますね」 「……、こちらこそよろしくお願いします」 ま~た、どんな厄介ごとや失敗の尻拭いをお願いされるのかしら。 軍曹の答礼は一瞬間があった。