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【手袋】シリア・ザ・ワーカー
ある日町を歩いていると、普段と違ってブルゾンにカーゴパンツという出で立ちのシリアちゃんを見かけました。ちょっと気になって後をついて行ってみると、町外れの小さな工場に入っていきます。シリアちゃん、大学生だからここの従業員って訳じゃないはずだけど・・・。 しばらく待ってみましたが出てくる気配が無いので、意を決して私もシリアちゃんが入ったのと同じドアを開けて中を覗いてみました。中ではブルゾンを脱いで白いタンクトップ姿になったシリアちゃんが、何やら大きな機械の前で作業をしています。 「・・・あら?カメラマンさん、こんな所で会うなんて意外だわ」 機械の段取りをしていたシリアちゃんがこっちに気付きました。私は工場の中に足を踏み入れて、シリアちゃんの近くに行ってみます。 「シリアちゃん、こんにちは。何してるの?ここって普通に町工場だよね?」 「ええ。私の親戚が経営している工場なの。だから時々機械を使わせてもらっているわ」 シリアちゃんが指し示した機械の中には、大きな鎌がセットされています。シリアちゃんがスイッチを入れると、回転する砥石が鎌を研ぎ始めました。なるほど、いつも持ってる鎌のメンテナンスに作業機械を使っているのか。 「でもシリアちゃん、その恰好はちょっと危ないんじゃない?」 「ん、まあね。ケガする可能性は普通にあるけど、機械の熱で冬でも結構暑いのよ、ここ」 「いや、そうじゃなくて露出度が・・・こう、なんかエッチ」 しっかりした作りの皮手袋やカーゴパンツを着用しているのに、上半身だけ薄いタンクトップっていうアンバランスさが原因なのかな。白い肌に視線が吸い込まれてしまいます。上半身が露出してるのに手袋はしっかりはめてるっていうのも、裸にニーソックスだけの格好を見た時に近い何かを覚えてしまう。言語化が難しいなぁ。 「エッチって、あなたねぇ・・・。別に下着って訳じゃあるまいし、エッチだと思う方が性欲持て余してるんじゃない?」 「むぅ・・・」 確かに下着って訳じゃないんだろうけどさぁ・・・見ちゃうよね。胸元とか。 「お、シリアちゃん来てたのかい」 「こんにちは。また鎌の研磨をさせてもらってるわ」 ツナギ姿の男性が通りかかり、シリアちゃんに声をかけてきました。ここの従業員さんでしょう。・・・あれ、私ここにいるとまずいのでは?普通に部外者だし。 「そっちの男の人はもしかして、想い人さんかな?」 「違うわよ。どうみても年が離れすぎでしょう。ただのストーカーよ」 「ええ!?」 し、シリアちゃん!?急に刺してくるじゃん!案の定作業員さんの目が厳しくなったし! 「何ぃ?ストーカーだとぅ?」 「あ、あの違うんです」 弁明しようとしましたが、新たに二人のツナギ姿の男性も現れました。どうやらストーカーという単語を聞きつけて来てしまった様子です。 「聞き捨てならねえな。おいあんた、ちょっと来てもらおうか」 「すみません、失礼します!」 慌てて私は工場のドアを開けて逃げ出しました。しかし彼らは後を追ってきます。 「待てこのストーカー野郎!」 「許さねぇ、タマをペンチで挟み潰してやる!」 「やらないか」 私は久方ぶりに全力疾走というものをしました。桜一文字さんから逃げる時とかでさえ、こんなに速度を出した事はありません。紛争地帯で戦闘に巻き込まれた時以来かな。だって捕まったら恐ろしい事になる未来がはっきり見えたんですもん。 どうにか彼らを振り切った後、スマホを確認するとシリアちゃんからメッセージが来てました。 『後でストーカーって言うのは訂正しておくから安心してね』 むしろ何でストーカーに仕立てたんだ!ただちょっと街中で見かけたからこっそり後をついて行っただけなのにストーカー呼ばわりなんて!ひどい話です。