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【紫陽花】雨の日の帰り道で霊が憑いてきた話
「でーんでん、むーしむーし、かーたつーむーりー。いーつかはかーえれーるとーいいなー。デデーン♪」 雨の中、何か不穏な歌が聞こえたので周囲を見渡してみると、紫陽花の植え込みに向かってしゃがみ込む女性の姿。やっぱり幽魅でした。私は幽魅に歩み寄ると、傘を彼女の上に差し出します。 「ほえ?凪くん」 「濡れちゃうよ、幽魅」 私は何の気なしにそう言ったのですが、幽魅は一瞬きょとんとした後笑い出しました。 「ばかだなぁ、私幽霊だよ?雨で濡れるわけないじゃん」 「あ」 それもそうか。幽魅はすり抜けたい物質は自由にすり抜けられるんだもんな。傘とか要るわけ無かった。しかしまあ一度女性の上に出した傘を引っ込めるのも何だかやりづらく、どうしようかちょっと考えてしまいます。 「でも私が幽霊だとか、そう言うのより先にまず心配してくれたんだ。ありがと凪くん、好きー♡」 むず痒いなぁ。何とかペースを取り戻したい。よし。 「その『好き』は友愛の好き?それとも恋愛の好き?」 「ひぇ!?あ、あー・・・それはそのぅ・・・ご想像にお任せしますって事で」 回答はぼかされました。まぁ態度と表情から大体お察しできるんですけど。 「それで、幽魅は何を見てたの?」 「かたつむりの一日の暮らしをずっと見てたんだ。そろそろ24時間経つくらいだよ」 ・・・どんだけヒマなんだろう。その行動、現世への未練とか絶対1ミリも関係ないしそんなに執着する事じゃないはずなのに。 「凪くん今、私の事をヒマ人だと思ったでしょ」 「全然考えもしなかったけど」 「嘘だー!態度と表情から大体分かるんだからね!」 顔に出てたか。きっと玄葉が私を見る時のような呆れかえった目をしてたに違いない。 「いいもん、もうやめにするもん。凪くんの追跡に切り替えちゃうんだから」 「追跡って・・・いいけど、私もう帰るところだよ?」 「じゃあ一緒に帰ろ♪」 一緒に帰ろう、かぁ。完全に私の家を自宅扱いしてるな幽魅。まあいいけど。 「どこか寄りたいところある?」 「んーん。凪くんが寄り道しないなら特に無いよ」 私と幽魅は並んで帰り道を歩き始めました。・・・幽魅が濡れないと分かっていても、自分だけ傘をさしてるの何か嫌だな。 「幽魅、こっちおいで」 「わ」 私は幽魅の肩に手を回して抱き寄せ、ぴったり密着して歩きます。霊が見える人が見たら相合傘に見えたでしょう。 「な、凪くんってば意外と大胆だなぁ。もし私が幽霊じゃなかったら濡れちゃってたよ?」 「・・・うん?生きてたなら濡れてた?」 その場合ならむしろ濡れなくなるのでは?傘の範囲内に招き入れたわけだし。 「ほら、今はもう死んでるから性欲とか無いじゃん私。だからこういう事されても、ドキドキはするけど・・・」 「私にしか聞こえないからって公共の場ですごい事言ってたね!?」 濡れるってそっちか!そんなの急に言われてもコメント返しづらいよ! 「あ、あはは。雨に濡れることとかけて言ってみたけど、ドスベリだったみたいだね?」 「下手すりゃドン引きレベルの発言だね。セクハラオヤジからもそんな発言中々出ないよ」 そんな話をしながら歩き、私の家までたどり着きました。 「凪くん、この後の予定は?」 「今日は早く仕事終わったから、夕飯の支度をするまでの間はゆっくりするよ」 濡れた傘を干して、自室に戻ります。幽魅はいち早く私のベッドに座りました。 「ねえ幽魅、私ちょっと仮眠を取ろうかと思ってたんだけど」 「早い者勝ちだもんねー」 そう言うと幽魅は私のベッドに寝転がって占領します。そっちがその気なら私にも考えがあるぞ。 「じゃあ一緒に寝ようか。ちょっと詰めて」 「ちょおおい!?」 私は幽魅に伸し掛かり、抱きかかえるようにして転がします。 「凪くんの行動にどんどん遠慮が無くなっていくよぉ・・・」 「まぁ、もう何度もキスとかしてる仲だしね」 そのままベッドの上でしばらく幽魅とじゃれ合う内に、私はすっかり寝入ってしまいました。疲れがあったのかも知れません。そして多分、幽魅も私が眠ったので退屈になって一緒に眠ったのでしょう。しかしこれは大きなミスでした。 「お兄、もう夜だけどお夕飯って・・・あ」 夢心地の中そんな声が聞こえた気がした次の瞬間には、私と幽魅は仲良く塩漬けになっていたのでした。 「ぎにゃああああーーーーー!!!」 「目が!目がああーーーーー!!!」 ※7、8枚目はオマケ画像です。animagineXL4.0 Optで生成すると幽魅はこんな感じになります。服の色がかなり濃いめになって印象が変わります。