【雨宿り】通り雨と通り魔

突然の通り雨に襲われた私は、人の気配のしない小さな小屋の軒先を借りて雨宿りをしていました。すると後から、女の子が服を濡らしながら私の隣に駆けこんできます。 「どうも、カメラマンさん」 「あれ、シリアちゃん」 女子大生で殺人鬼のシリアちゃんです。通り雨の次は通り魔かぁ。いや言ってる場合か。 「シリアちゃん・・・鎌は持ってない、よね？」 「何びくびくしてるの？そんな見境なく切り捨てないから」 じゃあ単に雨宿りしにきただけか。この雨で視界が悪いから、それに紛れて私を処断しに来たとかじゃなくて良かった。 「自分で言うのも何だけど、私シリアちゃんに斬られる可能性あるからね。色々とセクハラじみた事してるし・・・」 ちらっとシリアちゃんに目をやると、服が透けて水色のブラが見えています。視覚情報が入ると、連鎖的に感触や匂いまで蘇ってしまうな。そんな私の視線に気付いたのか、シリアちゃんはそっと胸を庇いました。 「さすがはエロカメラマンさんね。ホテルであんな事してあげたのは軽率だったかしら」 「だ、大丈夫分かってます、あれはあくまでシリアちゃんと先輩の関係進展のため。あわよくばもう一度なんて思ってないので」 「本当かしら・・・」 シリアちゃんはまだ疑いの目でしたが、ふぅと溜息をついてポケットから鍵を取り出し、小屋の鍵を開けました。 「あれ？ここシリアちゃんの小屋？」 「あの探偵が、町中にいくつか隠れ家を用意してるのよ。一時的に処理に困るモノを隠しておいたり、敵に追われた時に身を隠せるように」 江楠さんか。しかしまあ警察に顔のきく探偵が殺人鬼とつるんでるとか、もうこの国の司法が信用ならなくなってきそうだ。 「カメラマンさんも中に入りなさい。外に立ってられると目立つから」 私はシリアちゃんに促され、小屋の中に足を踏み入れました。木造なのに、どこか鉄錆びのような臭い。もしかして、血の臭いかも知れません。 「通り雨だし、止むまでそんなに時間はかからないでしょう。ちょっと部屋の隅の方向いて座っててくれる？」 「えっ、どうして？」 「服を絞るから」 なるほど、私が見てる前じゃ服を脱ぐわけにはいきませんよね。私は大人しく部屋の隅を向いて体育座りで床に座りました。そっとスマホを取り出します。 「言っておくけどインカメラとかも無しよ。あと都合よくそっちの壁に鏡があるとかもないからね」 「くっ」 「くっじゃないでしょ。やっぱり斬ろうかしら」 そんな冗談を交えつつ、シリアちゃんは服を脱いで水気を絞ります。私は覗きは諦めて静かにシリアちゃんの身支度を待ちました。と。 「え？」 壁際に立ててあったスコップが、急に私目掛けて倒れてきました。 「どわぁ！？」 間一髪で床を蹴って躱します。一瞬前まで私がいたところに、スコップの金属部分が振り下ろされました。 「きゃあ！」 「えっ！？」 背中に当たる柔らかい感触。どうやら飛び退いた拍子にシリアちゃんの膝裏に的確に体当たりしてしまったようでした。直後、私の頭上からシリアちゃんの体が降ってきます。 「痛ったた・・・」 「あ・・・」 床に背中を打ってしまったシリアちゃんでしたが、私は咄嗟に謝罪を口にする事もできませんでした。目の前の光景が衝撃的だったからです。足を大きく割り開いた下着姿のシリアちゃん。濡れた体がつやつやと光を反射し、肌のハリを視覚から訴えてきます。 「・・・」 「あ・・・えーと、ご、ごめん」 シリアちゃんと視線が合ってようやく、私は口から謝罪の言葉を絞り出しました。シリアちゃんはゆっくり足を閉じ、ころんと転がって私の前からどきます。それからおもむろに、部屋の片隅にいつの間にかあった大鎌を手に取りました。 「どこがいいか希望を聞いてあげるわ。首？股間？」 「前髪で。最近伸びて来たんだよね」 チュイン！と前髪を掠めて白銀の閃光が横切りました。 「聞き方変えるわね？斬首と股裂き、ご希望は？」 「どっちも嫌です。そうだシリアちゃん、私今日さ、仕事先で某夢の国のペアチケットをもらったんだよね。あげるから許して下さい。先輩と一緒に行けるよ？」 ・・・今日は何とか買収に成功しました。次は無いかもしれないです。