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衣料品店での爆弾騒ぎ
「お兄、私相手でもムラムラするみたいな事言ってたくせに全然誘ってこないな・・・やっぱりグレーの下着って色気ないのかな。み、瑞葵ちゃんみたいに黒いのにしたらお兄の反応も変わるかな・・・?」 衣料品店の女性用下着コーナーで、私は黒いパンティの品定めをしている。今使っている下着がそろそろ使い古されてきたので、ちょっとこれを機に普段選ばない色にも手を出してみようかなんて思ったのだ。でもよく考えたら、これを買っても履いているところを見せなきゃ気付いてもらえないだろうし、どうしたものかと思案中。 「ああ、やっぱりやめやめ。そもそもお兄って基本的に下半身より胸が好きみたいだし、そこまでパンティにこだわらないでしょ・・・って、あれ?あれって幽魅さん?」 視界の端を、幽魅さんが横切ってお店を出て行った気がした。もし本当に幽魅さんだったら急いで追いかけないと。あの人幽霊だからスマホとか無くて基本連絡手段ないんだから。私は何も購入しないまま、衣料品店を出て周囲を見回す。 「あっちかな」 何となくのあたりを付けて、歩道を小走りで移動する。衣料品店から50mくらい離れた頃に、それは起きた。 『ズッドォオオオン!!!』 鼓膜が破れるかと思うほどの大音量が鳴り、背後から熱い風が吹いてきた。慌てて振り向くと、さっきまで私がいた衣料品店が大惨事になっていた。歩道に面したガラスは割れ、店の入り口にあった防犯ゲートが車道にまで吹き飛ばされてる。店内にはちらちらと炎が見えていた。どう考えても、爆破されたとしか思えない。 「まさか、テロリンが爆弾を仕掛けてたの・・・!?」 本当に危ないところだった。幽魅さんを偶然見かけて店を出ていなければ、確実に巻き込まれていただろう。そうだ、幽魅さんを捜さないと。爆発に気付いて野次馬しに戻ってきてくれていればいいけれど。周囲のざわめきに負けないように、私は声を張り上げ幽魅さんを呼ぶ。 「幽魅さん、いるなら返事して!幽魅さん!どこなの!?」 しばらく声を上げ続けたが返事は無い。そのうち、ふと恐ろしい想像が脳裏をよぎった。 「・・・この爆弾、幽魅さんが持ってきたって事はないでしょうね」 衣料品店ともなれば、いつだって人が多い。爆弾を気付かれず持ち込むのは至難の業だ。なんとなくイメージが湧く『紙袋入り爆弾』だって、衣料品店に紙袋を持ち込むのは不自然だし、下手すると万引き目的に間違われるかも知れない。その点、幽霊なら誰にも見つからず気配もなく天井裏なんかに爆弾を仕掛けられる。 「ない、ありえない。だって幽魅さんだもの。あの人、悪戯はするけどこういうガチ犯罪はしないはず」 悪い想像を、頭を振って振り払う。目の前の衣料品店には消防車や救急車が何台も到着し、事態の収拾にあたり始めた。 「と、とにかくこれ以上ここにいてもしょうがない。また爆発が起きないとも限らないし、家に戻ろう。お兄にも幽魅さんを見かけた事を知らせなきゃ」 私は家に向かって走り出した。ひどく胸がざわざわする。一刻も早く、お兄の顔を見て安心したい。その気持ちが足を急がせた。 「ただいま、お兄。・・・お兄?」 そして辿り着いた家では、お兄がスマホ片手に顔面蒼白で立ち尽くしていた。