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凪と紅、遭遇す

その日、私は帰り道を急いでいました。何せ、今この町には危険なテロリストが潜んでいるのですから。少しでも外出している時間を減らさないと危険です。 先日も中学校で爆弾が爆発したと江楠さんから聞きました。桃宮ちゃんの話を聞いた限り、生徒には爆弾とは伝えられてなかったようですが、これは英断だと思います。そんな事が生徒にバレれば大パニックは避けられませんからね。 そんな私は、家に早く帰りたい一心で路地裏を通って近道をしました。これがまずかった。 「あっ」 私の視線の先、黒いシャツを着た中性的な若い男。江楠さんに見せてもらった写真と同じ顔。紅(ホン)です。紅はまるで感情のない顔でこちらを見ています。こうして目の前に立っているのを見ると、恐怖が沸き上がってきます。彼が人殺しだと知っているからではありません。本能的に、紅の方が生物として格上だと感じるのです。ネズミから見た猫、カエルから見た蛇。そういう感じの威圧感があります。 「・・・」 紅は何も言わずこちらに近寄ってきます。まずい、逃げないと。いやでも突然慌てて逃げ出すのも不自然だし、逆に刺激してしまいそうだ。とりあえず何か言わないと。 「あ、I don’t speak Chinese very well.中国語分かりません!」 すると、ぴたりと紅は足を止めました。英語か日本語か、どっちかが通じたのかな。 「妙だな」 紅は流暢な日本語を口から漏らしました。相変わらず感情の読めない表情のまま、淡々と言葉を続けます。 「特別に華僑華人であるように見える外見ではないだろうに、なぜ俺が『Chinese』だと判断できた?」 やばい、やらかした。冷や汗がどっと噴き出るのを感じました。何か納得させられる言い分が出来ないと殺される。何かないか何かないか・・・! 「お、お名前ですよ!ほら、日本人じゃ『紅(ホン)』なんて名前の人いませんから!」 「・・・お前はどうやら俺を知っているようだな。だが俺はお前を知らない。不思議な事もあるものだ」 最悪だ。名前まで知ってたなんて、どう言い訳しても怪しすぎる。パニックになって口を滑らせなければ良かった。 「工作員ではなさそうだな。となると、テロリンク。支援組織の手の者か?」 「あっ、はい!そうです!お勤めご苦労様です!」 危ないところで首の皮一枚繋がったようだ。勝手に勘違いしてくれて良かった。 「テロリンクの者なら、会員バッジを持っているだろう。見せてみろ」 「す、すみません。今日はちょっと自宅に忘れてしまって・・・」 テロリンク、会員バッジなんてあるんだ。今度江楠さんに聞いて偽装アイテムとして偽物を用意してもらった方がいいかも知れない。 「よく分かった」 紅は懐から大ぶりのナイフを取り出し、鞘から刀身を抜いた。私は『なんとかなりそう』という感覚が木っ端微塵に砕ける音を聞いたような気がする。 「冥途の土産に教えておいてやる。テロリンクに会員バッジなどない。話を合わせようとして墓穴を掘ったな」 ナイフの刀身がぎらりと光を反射し、紅は私に向かってすたすたと近寄って来る。逃げないといけない。頭では分かっているのに、足が動かない。 「じゃあな」 紅がナイフを無造作に突き出した。私の目の前を白銀の閃光が走り、 『ガギィン!』 鈍い金属音と共に、紅のナイフが弾き飛ばされた。赤黒い染みの付いた黒マントが、私の目の前で翻る。 「カメラマンさん、さっさと逃げなさい」 シリアちゃんが、大鎌を紅に突きつけながらそこに立っていた。シリアちゃんが紅のナイフを弾き飛ばして助けてくれたんだ。 「し、シリアちゃん。君も逃げるんだ。あいつはテロリストで」 「知ってる。だから私が食い止めておくから、さっさと逃げて探偵に連絡しなさい。テロリストと殺人鬼とカメラマン、命のやり取りに一番そぐわないのが誰だか考えなくても分かるでしょう。・・・早く逃げて!」 シリアちゃんの叫びが私の足に力を呼び戻してくれました。私はスマホを取り出しながら二人に背を向けて大通りの方へ走るのでした。 紅はシリアに背を向けて、弾かれたナイフを拾いに歩いた。シリアは動かない。紅の場合、何気ない動作そのものが『誘い』である可能性も極めて高いからだ。視線を読み、行動を予測しないと危険すぎて立ち回れない。それをシリアは経験で知っていた。紅がナイフを拾い、再び構える。 「お前と戦うのも何度目だろうな。いい加減邪魔をしないで欲しいのだが」 「そっちこそ、行く先々で現れないで欲しいわ。今日こそ終わらせてあげる」 紅はナイフ、シリアは大鎌を構え、狭い路地裏で相対する。長物を持つシリアの方がリーチは上だが、その分横幅が狭い所では鎌を満足に振るえない。必然、縦切りを中心にする他ないだろう。紅もそれは分かっているようで、シリアを誘うようにじりじりと近寄っていく。紙一重で斬撃をかわし、代わりにナイフの突きを見舞おうと狙っているのだ。 「ふっ!」 不意にシリアが小さな草刈鎌を取り出して投擲した。紅はそれを冷静にナイフで弾く。その隙に、シリアは一足飛びに大鎌の射程まで距離を詰めていた。 「はぁっ!」 振り下ろされた大鎌をかわして、ナイフを取り落としながら紅は後ろに飛び退く。跳びながらそこにあったドアノブを握り、外開きのそのドアを開いて自身とシリアを隔てる壁にした。シリアの目の前に残ったのは、紅が手放したナイフ。そして、そのナイフの柄に仕込まれた爆弾がシリアの視界に入った。 「!」 シリアがそれに気づいた時には、ドアの陰で既に紅はライター型起爆装置を手にしていた。蓋を、閉じる。 『ズッドォオオオンッ!!!』 ナイフの爆弾が爆破され、狭い路地裏を爆風が駆け抜ける。ドアを盾にした紅には、その爆風はほとんど届かなかった。空気の震えが治まる頃、紅はひしゃげたドアを蹴って元のスペース近くまで戻す。紅の視界が開けた。 「・・・」 紅の視線の先には、爆心地の焼け焦げ。そしてその傍らに落ちた、血に染まり、ボロボロになった黒いマント。不意にびゅう、と強い風が路地裏を吹き抜けて、その血染めのマントは風にさらわれて飛んで行った。後には肉片一つ残っていなかった。 「・・・市街地を爆破する予定だったが、今日の所は引き上げるか。この騒ぎで警戒が強まり、人の集まる場所が変わるだろう」 紅は近づいてくる人々のざわめきと、遠くに聞こえるパトカーのサイレンを聞きながら路地裏を後にする。頭の中では、次の爆弾の仕掛け場所を検討しながら。数分後、野次馬や警察がこの路地裏に集まる頃には、既に紅の姿は影も形も無かった。 ・・・こうして、町を震撼させた連続殺人鬼『シリア・ザ・シリアルキラー』は姿を消した。

コメント (9)

thi

爆発の画像がどんどん過激になっています

2025/03/12 15:04

早渚 凪

爆発が一番生成ガチャなんですよ。上手い事理想通りの爆発画像って中々生まれないんです

2025/03/13 14:40

五月雨

これで紅さんも堕ちましたわね!

2025/03/12 13:13

早渚 凪

だとしたら凪は魔性の男過ぎるでしょうw 男女問わず虜にする能力とかないんでw

2025/03/13 14:39

Jutaro009

ヤバい展開に

2025/03/12 13:07

早渚 凪

真姫奈「まずい、シリア君がやられたぞ」

2025/03/13 14:38

杖先なぎ
2025/03/12 12:18

早渚 凪

2025/03/13 14:37

水戸ねばる

めっちゃ爆発しとる

2025/03/12 10:41

早渚 凪

高性能小型爆弾は伊達じゃない(現代科学で再現不能なレベルの爆破力w)

2025/03/13 14:37

サントリナ
2025/03/12 03:03

早渚 凪

2025/03/13 14:36

もみ

続きが気になる

2025/03/11 21:53

早渚 凪

この辺りで概ね三分の一程度ですね。頑張ります

2025/03/13 14:36

白雀(White sparrow)
2025/03/11 21:42

早渚 凪

2025/03/13 14:35

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2024年7月よりAIイラスト生成を始めた初心者です。 全年齢~R15を中心に投稿します。現在はサイト内生成のみでイラスト生成を行っています。 ストーリー性重視派のため、キャプションが偏執的かと思いますがご容赦願います。

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