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【長編08】止まらない凶行
●SIDE:鈴白瑞葵 「瑞葵、ここにいたか!無事だったか?」 「お父さん!」 船内上層部で、私はお父さんと再開できました。 「向日葵は一緒じゃないのか?」 「うん、おねーちゃんとははぐれちゃって・・・」 凪さんが戻って来るのを待っている内に、突然船が大きく揺れて、ライブが中止になって。パニックになった他のお客さん達に押されて、おねーちゃんとは離れ離れになってしまいました。お父さんは私の肩に手を置いて、真剣な表情で話をします。 「瑞葵、よく聞きなさい。これはテロ組織の仕業らしい。ほら、向日葵が爆弾テロで入院した時の犯人だよ。このまま乗っていたら、船が沈んでしまうかもしれない。救命胴衣を、無かったら何か浮き輪代わりになりそうなものを探して、海に飛び込むんだ」 「救命ボート、足りなさそうだもんね」 「いや、それだけじゃないんだ。どうやら、救命ボートには爆弾が仕掛けられているらしく、乗ったら逆に危ないそうだ。さっき立て続けに甲板の方からしていた爆音がそれだろうな。警告してやりたいが・・・あのパニックの中でそんな事を叫べば、余計に混乱が広がってしまいかねない」 確かに、皆「どうしたらいいの!?」ってなっちゃうかも。悔しいけど、ここは逃げる準備をしよう。 「私は向日葵を探す。瑞葵は一人で逃げなさい」 「ううん、私も一緒に行く。私だけ助かってもダメだから」 「・・・そうか、友達もいるんだったな。分かった、二人で行こう」 私とお父さんは甲板に背を向けて、船の中で二人を捜し始めるのでした。 ●SIDE:桜一文字花梨 金剛院グループの声掛けによって応援が集まった頃には、既に事態は取り返しがつかないところまで来ていた。最初に船に入った救助隊の乗っていた救助艇は、海に飛び込んだ人を拾っては陸地に運んでいる。当初はあれが深海救太郎の救助艇かと思ったけれど、普通に人助けをしてるから違ったらしい。もしかしたら深海は最初から船内に潜んでいた可能性もあるから、かなり良くない状況だ。お嬢様が手配してくれた応援はあの救助艇と同じく救助活動に加わって、それなりに大勢の人が港に戻って来れていた。でも早渚さんはその中にいない。 「ああ、超長距離狙撃用のライフルを持ってくるべきだった・・・!」 救命ボートの爆発はしなくなったあたり、起爆装置を海に落としたのは正解だった。でも、紅が甲板で逃げ惑う人々を次々に殺している。200m以上離れた沖合にある客船の甲板、その上で動き回る紅だけを正確に狙撃するには、その辺のライフルじゃ性能が足りない。もしヘリに乗って甲板に移動できても、あの群衆パニックの中で紅と戦うのはあまりに不利過ぎる。向こうは周りの全てが殺害対象でも、こっちからしたら紅以外の人を巻き添えにできないから人質一人取られるだけで終わりだ。 「歯がゆいだろうが、今君にクィーン・シズムンドに乗り込まれると港の守りが甘くなる。船だけじゃなくて、港を爆破する可能性もあるわけだからねェ、不審な動きをする奴がいないか見張り続けるんだ」 インカムからは江楠さんの声が聞こえてくる。その懸念はもっともだ。怪我人と野次馬、それに救急隊まで駆け付けた港は十分ターゲットにされる可能性がある。私は紅の動向を気にしつつも、港を動き回り仲間がいないかを見張らざるを得なかった。 「どれだけ鍛えても・・・どれだけ強くなっても、人ひとりが出来る事って本当に小さいな・・・」 私は普通の人間よりもずっと強い部類に入ると思うけれど、ドラマや映画のようなヒーローにはなれない。大事件の時に一番役に立つのは、チームで動いている救助の人たちや救急隊員だ。己の無力を痛感する。でも今は、出来る事をしよう。 ●SIDE:天ノ杓エリスロ 「おっと、あれですね。ライダースーツの女」 部下の一人の視線の先、港を小走りで移動する女がいた。クィーン・シズムンドを時々双眼鏡で見たりしながらも、港の人間を確認しているように見える。 「紅サマが言ってた通りなら、接触するのは避けるべきですねぇ。私たちもここを離れて、後で紅サマや深海クンとアジトで落ち合いましょうか」 「あの女を始末しなくてよろしいのですか」 大型作戦に血が騒いでいる様子の部下もいる。だけど、それは今悪手でしかない。 「紅サマが起爆装置ダメにされるような相手ですよ?殺気にも敏感だろうし、ここで事を起こしたら人目に付きすぎでしょう。最悪、私がテロリンだってバレちゃいますよ。私がアイドル活動を続けられなくなるのはテロリンにとって痛手ですよぉ?」 そうなれば、私は幹部を辞して裏方に回るしかなくなる。事によってはテロリンによって私が殺されるかもしれない。ここは大人しく現場を去るのが一番良い。 「失礼しました。では行きましょう」 部下たちは私を囲んで、アイドル天ノ杓エリスロの姿を目立たないようにしてくれる。そのまま港を離れ、自分たちの車に乗り込んで移動を開始した。 「速報ニュースになってますねぇ、クィーン・シズムンドの事」 「今頃はオジム様が各メディアに声明を送っている頃でしょうか」 今回の事件でまた一つ、テロリンは世界に印象を刻み込んでいく。いずれは誰もがテロリンを恐れて、大勢で集まったりする事を避けるようになっていくだろう。そうすれば人と人との絆も薄れていき、世界は勝手に不和に満ちていく。そうなる頃には、私の役目も終わるのだろう。 「そして最後には、紅サマが全てを終わらせる・・・ふふ」 終末の日を夢見て、私はそっと笑みをこぼした。
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