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【探偵】江楠志愛あらわる
仕事帰りの私が夕方の路地裏を歩いていると、目の前に一枚の写真がひらりと落ちてきました。拾い上げて見ると、小さな赤髪の女の子が探偵衣装に身を包み、虫眼鏡を自慢げに構えているショットです。あれ、これって・・・。 「きゃあああ~~~~~!」 その時、突然上から声がしたと思うと、続けて私の背後でぐしゃっという音が。振り向くと、小柄な女性が倒れていました。その頭部はザクロのように弾けており、一目で絶命していると分かります。まさか・・・このビルの上から落ちたのか! 「あわわ・・・救急車!?警察!?」 私が慌てていると、不思議な事が起こりました。女性の遺体から飛び散った血や頭蓋の中身がさぁっと塵になったかと思うと女性の頭部に戻っていき、砕けていない形状に戻ったのです。 「ふぅ~、また死んじゃった」 むくりと女性が起き上がり、頭を押さえます。その顔にはまだ血がついているものの、それもすぐに塵になって消えました。 「あっ、驚かせてごめんね。その写真私が落としたの」 女性は私の手から写真を取り戻すと、立ち去ろうとします。私は思わず声を掛けていました。 「ま、待って下さい!あなたは・・・」 すると女性はこちらを振り向き、悪戯っぽく笑います。 「ふふ、今見たのは忘れてね。私は普通の人間じゃないの。名乗るとするなら・・・ラファエル、かな♪」 「いや江楠志愛さん45歳ですよね」 私が言うと彼女・・・志愛さんは驚いて 「やだ!?お母さんびっくり!ていうか歳は言わないで欲しいな!?」 なんてリアクションを。やっぱり、あの写真は子供の頃の江楠さんだ。 「そうなの、早渚くんは真姫奈ちゃんのお友達なのね」 私は志愛さんをカフェに連れてきて、話をしていました。江楠さんに発見の報告もしなきゃいけませんが、とりあえず事情を聞かないと。 「ほらこれ、子供の頃の真姫奈ちゃんよ」 志愛さんは何枚もの写真を見せてくれます。どれも探偵ごっこの時の写真だ。 「あの子、小さい頃は少年探偵団が活躍するアニメを観てたのよ。この服も気に入ってたのを覚えてるわ。・・・今はちょっと、あの頃憧れていた探偵とは違う形みたいだけど」 「志愛さんは江楠さんの現在をご存じなんですか」 「ええ、時々陰からそっと見ていたわ。他の人の弱味を握って好き放題に操るなんて、やっぱり親に似てしまうのね」 ・・・その言い方だと、志愛さんも似たような事はしてるのかな。いや父親の方かな?でも晶さんがパーティ会場で志愛さんを見てるなら、もしかすると志愛さんも権力者に対してそういう事をしてるのかも。怖くて聞けないけど。 「江楠さんは志愛さんをずっと捜してるんです。どうして会ってあげないんですか?」 「・・・私は化け物だから。体は年も取らないし、死んでもすぐに生き返る。見たでしょ、私が塵になって再生するのを。20年前にちょっとあってね、邪神っていうのかな。それに気に入られてしまったみたいで、死ねなくなっちゃったのね。その呪いを解かない内は周りの人に気味悪がられちゃうから、真姫奈ちゃん達には悪いけど距離を取ってるの。ずっと姿が変わらないのって変でしょう?同じところにずっといたらバレちゃうのね」 その呪いが解けない限り、彼女は家族の元に帰れないのか。寂しいだろうな。志愛さんはコーヒーを置き、「少しお花を摘んでくるわ」と席を立ちました。私はその間に江楠さんに電話します。 「何だい早渚君、この間言われたテロリンの事ならまだ調べが進んでないが」 「江楠さん、今どこにいますか」 「パリだよ。こっちは昼だが、そっちは夕方ってとこかねェ」 「ああ・・・じゃあすぐには来れませんね。実は今、志愛さんとお茶してるんですが」 私が志愛さんの名前を出すと、急に電話の向こうですごい剣幕の叫びが。 「何だと!おい早渚君、母さんが君のところにいるんだな!?すぐに日本に戻る、それまで捕まえておけ!君のナンパ技術ならお手のものだろう!口説いてもいいし酔わせて泊めてもいい、何ならホテルに連れ込んで君無しじゃ生きられない体にしても構わん!とにかく絶対に逃がすな!」 「えっ、いやちょっと」 私が何か言う前に江楠さんは通話を切ってしまいました。というかさりげなく要求がひどいな。 「ごめんね早渚くん。さて、今度は早渚くんの話を聞かせてもらおうかなぁ。真姫奈ちゃんの最近の様子とか、どんな関係なのかとか♪」 志愛さんが戻って来て、私に話をせびります。なるべく長引かせないと・・・でもカフェの閉店時間もあるし、途中でなんとか夕食とか飲みに誘って・・・できればうちに泊まってもらえると一番いいよな。パリから東京ってどんなに急いでも日本時間で考えてほぼ一日かかるはずだよね。そんなに引き留められるかな。 私はそんな事を考えながら志愛さんに江楠さんとのエピソードを聞かせていましたが、そもそもそんなに深い付き合いじゃないので話題が持たない。 「ふふ、ありがとう早渚くん。これからもあの子と仲良くしてあげてね。じゃあ私はそろそろ・・・」 まずい、志愛さんが行ってしまう。この人、世界各地で目撃されてるから一度見失うとどこに行くか分からない。 「志愛さんはどこへ向かうんですか?」 「う~ん、上海かなぁ。捜してる人がいるんだけど、その子が住んでたお屋敷無くなっちゃったみたいだから、聞き込みとかしないとって思って」 上海はまずい。あそこは人が多すぎて、行かれたらもう江楠さんでも見つけられないだろう。し、仕方ない。やはりナンパするしかない。 「志愛さん、今日はもう遅いし、出発は明日にしませんか。ほら、もっと江楠さんの昔の話も聞きたいし、宿泊料金が心配ならうちに泊まってもらってもいいので。安心して下さい、私は妹と二人暮らしなので変な事はしませんから」 「急に悪いよぉ。心配しないで、一人旅には慣れてるし、そもそも不老不死だから」 ダメか。なら、アプローチを恋愛面に変えてみるか。 「・・・分かりました、はっきり言います。今夜だけでいい、あなたを抱きたい」 「えっ!?」 志愛さんが驚きますが、私としてもここで志愛さんを逃がすと江楠さんに何されるか分からない。命がかかってるかもしれないので必死です。 「早渚くんの気持ちは嬉しいし、正直ドキッとしたけどでも私人妻だし・・・あと、その後ろの子が何か言いたげだから、やっぱりやめておくね」 「後ろ?」 私が振り向くと、そこには私を見つめる瑞葵ちゃんが。 「凪さん、こんばんは」 ただの挨拶なのに凄まじい圧。私が怯んでいる隙に、志愛さんは手を振って立ち去ってしまいました。 「さあ、行きましょう。ホテルがいいですか、おうちがいいですか?ねえ?」 「あわわわ・・・」 瑞葵ちゃんにがっしりと腕をホールドされ、私は連行されました。江楠さんには何とか「瑞葵ちゃんに捕まって、志愛さん逃がしてしまいました」とは連絡できたけど、あからさまに不機嫌に。そして瑞葵ちゃんは一晩中私を許してくれませんでした。まあ、どう聞いても浮気だもんな、あれ。これは完全に私が悪かったです。
