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ピザに捧げる涙のエルフ

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2025年03月13日 16時10分
対象年齢:全年齢
スタイル:リアル
参加お題:

エルフの女戦士、ピザレッタ。森の奥で生まれ育った彼女は、今日も剣を片手に大きな声で笑いながら疾走している。その後ろを、相棒のドワーフ・ゴンデリックが渋い顔で追いかける。  その日、森の奥深くにある洞窟へと足を運んだのは、何やら新種のピザ生地ならぬ珍しい薬草があるとの噂を聞きつけたから。ピザレッタは「ピザは魔法だよ。恋と一緒だな」と口癖のように言いつつ、安全確保のため剣を構えて警戒を怠らない。  洞窟を奥へ奥へと進むにつれ、薄暗く湿気た空気が二人の肌をまとわりつく。そこには何やらピザの焦げたような香ばしい匂いが漂っていた。ピザレッタは「この香り、お腹が減るなあ」と呑気なことを言う。ゴンデリックは「いや、普通こんな不気味な場所で食べ物のこと考えないだろ……」とあきれ顔。そんな二人の前に、ゆらゆらと妖しい灯りが現れた。 「なんか泣いてる声がするよ?」  ピザレッタは探るように声のする方へ進んだ。するとそこには、同じエルフの少女がポロポロと涙をこぼしながら、巨大なピザをかじりついているという異様な光景。それどころか、どこかそのピザ……動いているように見えた。 「も、もしかして、そのピザ…?」 「兄さん、なんです……」  少女は顔を伏せて泣き崩れる。ゴンデリックは呆気にとられて口を開けたままだ。「どういう意味だ、その兄さんがピザになったってのは?」  少女は説明する。魔女にかけられた呪いで、彼女の兄は生地にされ、たっぷりのチーズやトマトソースをのせられピザ化してしまったという。しかも、香りがあまりにも美味しそうなので、つい食べ始めてしまったのだ……と。そして今になってようやく「兄さん、ごめん……」と泣き出したらしい。 「うそだろ……」  その場面に遭遇し、さすがのピザレッタも愕然とする。彼女にとってピザは特別な食べ物だ。しかし、まさかエルフのお兄さんがピザに変えられ、自分の手でそれを食べてしまうなんて……聞いたことがない悲惨な話だ。ピザレッタは言葉を失い、ただ少女の肩に手を置いて黙り込む。  一方、ゴンデリックは呆れているどころか、何か妙な違和感を覚えていた。「お前……ホントに悲しんでるのか?」食べかすが口のまわりについたままの少女は「もちろん悲しいよ!」と涙を拭う。だが目の前の残ったピザがまだ温かく、香ばしく湯気を立てている。少女はつい我慢できず、むしゃむしゃとそのピザをまた食べ始める。泣きながらも、口に頬張るペースが落ちないのだから、どれほど美味なのか想像に難くない。 「兄さん……ごめん、(泣)」  ピザレッタはそれを見て思わず声をかける。「でも、美味しそうだし、私も……ちょっとだけいいかな?」少女はびっくりしつつも、「い、いいよ。もうこうなったら誰かに食べてもらった方が兄さんも本望だろうし……」と何とも複雑な返事をする。 「おいピザレッタ、お前も食うのか!?」 「だってこんなに香りがいいんだもん。しかもエルフの兄さんといえど、魔力のこもった生地かもしれないし……冗談、顔だけにしろよって言うなよ。これ現実だから」  ゴンデリックはさすがに呆れた顔でため息をついた。「ああ、俺はもう知らん。好きにしろ」  ピザレッタは一切れを口に運んだその瞬間、思わず涙がにじむ。「こんなに複雑な味……まるで失われた森の悲しみと、エルフの誇りが混ざり合っているみたい。でも美味しい……ねえ、これが人の情けかもしれないよ」  少女は「うう、兄さん……」ともう食べる気力もなさそうにうなだれる。ゴンデリックは不思議そうにピザレッタを見つめ、「お前、本当にエルフか?」などとボヤく。  そのとき、不意に洞窟の天井付近から不気味な声が響いた。「それを食べてくださるとは、うふふ、思いのほかグルメですねえ」振り向けば、そこには小柄でとんがった帽子をかぶった魔女が立っている。「人をピザに変え、この洞窟で出会った者に食べさせる……それがわたしのちっぽけな楽しみですの」  ピザレッタとゴンデリックは同時に剣を抜く。少女は後ずさりで動けない様子だ。 「こいつをやっつけて、兄さんの魂だけでも解き放つわよ!」 「やれやれ、また厄介な魔女か……」  二人が構えたその瞬間、魔女は「気迫だけは褒めてあげるわ。では、いただきましょうか。次はあなた方の相棒を生地に変えてあげてもいいですわよ?」  ゴンデリックは顔を前に突き出しながら、「俺をピザにしてみろ? 絶対にマズイと評判になるわ」と吐き捨てるように言い放ち、斧を振り下ろした。ピザレッタもひと呼吸おいてから魔力を帯びた剣を勢いよく飛ばす。  一進一退の戦いが続く。魔女が放つ呪縛の糸がゴンデリックの足元を狙うが、短い脚を器用に使い、紙一重で回避。ピザレッタは軽やかなステップで間合いを詰め、剣先を魔女の帽子に引っ掛けて投げ飛ばす。「チーズは大好きだけど、あんたみたいな魔女は好みじゃないよ!」  魔女は「うぐっ!」と呻き、指先から放った小さな火の玉が虚しく天井を焦がす。最後にゴンデリックの斧が叩き込まれ、魔女は「そんな……」と一言残して消滅した。 「ふう……食欲がだいぶ失せたけど、これで兄さんの呪いも解けるのかな」  ピザレッタがつぶやくと、少女はぺこりと頭を下げた。「ありがとうございました……それでも、兄さんは……もう、体ごと半分くらい……食べちゃったけど……」  その場に沈黙が流れる。ゴンデリックは沈痛な面持ちとは裏腹に、「結局、食べちゃったんだな……」としか言えない。ピザレッタは少女に向かい、「大丈夫、きっと兄さんの魂はあなたの中で生き続けるよ……ピザは魔法だよ。恋と一緒だな」と小さく微笑んだ。  こうして奇妙な洞窟での大騒動は幕を下ろした。少女が兄の残り香をかみしめながら帰路につく中、ピザレッタとゴンデリックも魔女討伐の報酬を期待して森を後にする。相変わらず仲が悪いが、不思議と二人は隣り合わせで歩いていた。  夜のとばりが深く降り積もった森を、静寂がやわらかく包み込みます。そこには月の光を白銀にまとった樹々が、まるで時を忘れた記憶の回廊を顕現させるように佇んでおりました。ひんやりとした風が木立を抜け、空に浮かぶ星々の瞬きを揺り起こします。遠くかすむ山並みは眠りの気配を漂わせ、言葉では語り尽くせない神秘の響きを放つのです。行き交う雲は風に踊り、まるで小さなささやきで何かを語りかけるかのよう。やがて森を後にしたエルフとドワーフの背に、夜空いっぱいの星々が優しく寄り添うのでした。彼らの足音は、耳を澄ませば夢と現のあわいに溶け、明日への物語を希望のかけらとして、そっと運んでいくことでしょう。

コメント (3)

ガボドゲ
2025/03/15 11:39

Epimētheus

2025/03/17 01:57

Jutaro009
2025/03/15 02:26

Epimētheus

2025/03/17 01:58

へねっと
2025/03/13 22:44

Epimētheus

2025/03/17 01:58

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いいねコメントありがとうございます。忙しくなって活動を縮小しています。返せなかったらすみません。

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