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エルフのローゼリアはバラの夢をみる?

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2025年03月17日 16時10分
参加お題:

エルフの森の奥、どこか静まり返った湖のほとりに、一人のエルフが佇んでいた。その名はローゼリア。長い銀髪に翡翠色の瞳、細身の体を緋色のローブが包んでいる。彼女はいつも自信満々で、しかも自分が「星の王子様」に出てくるバラの生まれ変わりだと信じて疑わないのだ。 「ねえ、ドワーフのルッツィ。あたし、やっぱり前世はバラだったと思うのよ」  ローゼリアは湖面を覗き込みながら、妙に誇らしげにそう言い放つ。すると背後で大きな溜息が聞こえた。 「ふぅん……ほんとに信じこんでるのかよ。冗談、顔だけにしろよ」 「だって、一番大切なものは、目に見えないんだよ」 「それはキツネのセリフだろ…」  ドワーフのルッツィがぶっきらぼうにツッコむ。彼は頑固者で無愛想。しかもローゼリアとはウマが合わない。というより、二人は冒険者として仕方なくコンビを組んでいるというだけで、まるで飲み合わない酒のようにぎくしゃくしていた。  ローゼリアは気にする素振りもなく、小枝を拾って水面に円を描きはじめる。 「だって、星の王子様はバラをたいそう愛していたでしょう? あたしはそのバラ。だから皇帝の庭園でも、竜の火口でも、どんな場所でも気高くいる義務があるの!」 「その理屈はどこから出てくるんだか……」  ルッツィは苛立ちを隠さず首を振る。ついでに、先日ローゼリアが竜の火口で勝手に突進し、あわや全焼しかけた冒険を思い出してため息をつく。  一方、ローゼリアはルッツィに目もくれず、周りに咲く淡いピンクの花びらをそっと手にとった。 「ねえ、ルッツィ。あたし、気がついたんだけど……空は無限だよ。恋と一緒だな」 「はあ?」  意味がわからない、という声がドワーフの口からもれる。ローゼリアは得意げに胸を張った。 「だから、空も恋も、限りなく広がっているってコト。あたしはバラだから、愛されるのが天職なのよ。いつも誰かに目を向けてもらわなきゃいけないの!」 「勝手すぎる……」  そうこうしているうちに、二人はまばゆい光を放つ大樹の前にたどり着く。祈りの樹と呼ばれ、エルフたちが古来より大切にしてきた神聖な木だ。幹には不思議な模様が刻まれ、手を翳すと微かな振動が指先に伝わってくる。 「おいローゼリア、祈りの樹には勝手に触るなよ。下手をすると怒りを買うかもしれん」  ルッツィが止めようとするが、言うことを聞くはずもない。ローゼリアは楽しそうに葉を一枚摘んで、瞳を輝かせている。 「ふふっ、これはバラになるかな?」 「なるわけないだろ!」  ルッツィの突っ込みを尻目に、ローゼリアは鼻歌まじりに周囲をうろつきはじめた。その姿はまるで迷子の子猫。だが、自信がみなぎっているせいか、とにかく突飛なことをしながらも不思議と憎めない。ルッツィはどこか呆れながらも、彼女の後を追わざるを得ない。置いてきぼりくらえば、自分まで危険に巻き込まれかねないからだ。  森を抜けると、草原の向こうに石造りの町が見えた。あちこちから活気ある人々の声が飛び交い、煙突からは白い煙が細く伸びている。ローゼリアは町の門の前で立ち止まり、ツンと胸を張る。 「見なさいルッツィ。さあ、あたしたちを称える歓声がきこえない?」 「どこにもそんなの聞こえないが……」 「失礼ね。バラたるあたしに失礼があっていいとでも思ってるの?」 「へいへい。そんなこと言うなら自分で冒険しに行けばいいんだ。さんざんおれを振り回して……」 「それじゃ困るのよ、ルッツィ。あなたがいないと、道に迷うもの。あたしはバラだから、地に根を張ってちゃダメでしょ? 自由に動けるように誰かがいないと」  そんなわがままなセリフをぶつけられ、ルッツィはつい地団駄を踏む。素直に反発したいのに、なぜか彼女を放っておけない自分に腹が立つのだ。しかし二人揃えば、大抵の問題は笑い話に変えてしまう不思議な力もあった。結局のところ、ドワーフとエルフという犬猿の仲の種族が、どうにかこうにか協力し合って生き延びているのだから、不思議といえば不思議なコンビである。  町の大通りには行商人の呼び声が響き、波打つように人々が行き交う。香ばしいパンの匂い、果物の甘い香りにまぎれて、どこかでチーズが焦げる匂いもする。ローゼリアは活気に嬉しくなり、ルッツィを置いて勝手に駆け出していった。 「あ、こら! 勝手に走るなって……待てよ!」  慌てて追いかけるルッツィ。しかしローゼリアは猫のようにするすると人波の間をすり抜けてしまう。  気づけば町の端にある石段の上で、ローゼリアが腕を組んで佇んでいた。そこからは青く澄んだ空が遠くまで見渡せる。彼女は一際強い風に吹かれ、長い髪をふわりと揺らしながら微笑んだ。 「ルッツィ。あたし、やっぱり確信したよ。あたしはバラの生まれ変わりなんだって」 「またその話かよ……」  ドワーフは呆れ顔で彼女を見つめる。けれどローゼリアは、まるで長年の夢を語るように瞳を輝かせる。 「だって、これはもう運命なの。あたしは大切にされなきゃいけない花なの!」  ルッツィは思わず苦笑する。いつもの自分勝手な言動に始まり、結局は同じ「星の王子様」話に落ち着くローゼリア。だが、その根拠のない自信と天真爛漫さが、なんとなく彼を黙らせてしまうのだ。彼女の周囲には不思議な求心力がある――そう思わずにいられない。  夜の帳が降りる頃、街の石畳を照らす淡い月光が優雅な曲線を描いていました。遠くに聳える山々には風が流れて白銀のヴェールをかけ、雲はまるで踊る精霊のように形を変えながら闇を渡っていきます。かすかな灯火に誘われるように、ローゼリアとルッツィは見えぬ明日を信じて歩みを進めます。時折吹き抜ける風は、花の香りをそっと運び、月の光がそれを穏やかに照らし出します。そう、ふたりの奇妙な旅はまだ続くのです。あたかも、星空に咲く一輪のバラのように――。

コメント (4)

Yasuyuki Magic
2025/03/19 11:58

Epimētheus

2025/03/21 04:42

Jutaro009
2025/03/18 13:43

Epimētheus

2025/03/21 04:43

うろんうろん -uron uron-
2025/03/18 12:55

Epimētheus

2025/03/21 04:43

ガボドゲ
2025/03/18 10:39

Epimētheus

2025/03/21 04:43

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いいねコメントありがとうございます。忙しくなって活動を縮小しています。返せなかったらすみません。

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