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【スキー】4人だけのスキー場
「さあ早渚さん、存分に滑りましょう!」 晶さんが元気よく私に声を掛けてきます。そう言われても、私はスキー素人なんだけどな・・・。 今日は晶さんがスキー場へ招待してくれました。実のところ、このスキー場は金剛院グループが経営に関わっている施設の一つであり、この間雪崩が起きたそうなのです。電力の寸断や、設備の損傷などは概ね復旧したそうなのですが、あくまでスタッフがチェックできる限りのエリアのみしか確認が進んでいないそうです。そこで本格再開の前に、並外れた能力を持つ桜一文字さん・・・もとい花梨さんが、『人が迷い込む可能性もあるが危険なルート』のような普通のスタッフがチェックできないエリアを確認するという事で、本来は一人で来る予定でした。しかし丁度その日が暇になっていた晶さんが、いっそ貸し切り気分で遊びましょうと言い出し、私と玄葉を連れてきたという訳です。なので、今日はスキー場や併設の旅館のスタッフ以外は、4人だけの独占状態となっています。一応花梨さんが危険エリアのチェックをしている間、私たちに何か無いようにスタッフの人も時々遠巻きに様子を見てくれているので、滅多な事は無いと思います。が、私と玄葉はそもそも運動神経の問題で滑れないのでした。 「いや、連れてきてもらっておいて何ですが、私は滑るのが下手なので」 「だからこそじゃありませんの。他の利用者に迷惑をかける事無く練習できるではありませんか」 そもそも練習になるか怪しいレベルなんだけど・・・。玄葉も渋い顔で斜面を見下ろしています。 「金剛院さん、これ途中で転んだりしたら雪だるまになって一番下まで落ちたりしないですか・・・?」 「玄葉さん、そんな事になるのは漫画の中だけですわ。現実にはスキー板やボードが邪魔で、普通の斜面であればころころ転がろうと思っても転がれませんわよ」 「晶さんほど滑るのが上手ければ、そう言い切っても問題無さそうですけどね」 私たちレベルの下手さ加減だと、何が起きるか分からない。玄葉の料理みたいに、人智を超えた何かが起きる可能性もありうる事だし。 「あっはっは、早渚さん上手い事言いますね!お嬢様は『統べる』のが上手いから『滑る』のも上手いなんて!そんな小粋なジョークが言えるくらい余裕なら平気でしょう」 花梨さんがスノーボードに乗って上の方からザシャーッと滑ってきました。流石金剛院メイド部隊の最強メイド、何でもできるなぁ。というか、ジョークを言ったつもりはない。 「花梨さん、私は別にジョークを言ったつもりは無くてですね」 「え?お兄、今桜一文字さんを下の名前で・・・」 言いかけた玄葉が足を滑らせたのか、斜面を勢いよく滑り落ちていきました。声にならない悲鳴が下からここまで届いてきます。 「あわわわ、か、花梨さん!玄葉が!玄葉が!」 「あー、あれなら大丈夫ですよ。ビギナーズラックですかね、姿勢が安定してますし、ブレーキ出来なくても多分下まで行けば自然に止まれると思います」 「わたくしが見てきますわね。早渚さんもお早くいらしてくださいな」 慌てるだけの私、落ち着いて状況を見る花梨さん、玄葉をちゃんと心配して滑っていく晶さん。いかん、私が一番情けないやつだこれ。玄葉の方はと言えば、斜面の下まで到達した後にスキー板を横に向けて転がり、うつ伏せの姿勢で雪に倒れました。見る限り、怪我は無さそうだけど・・・。 「ほら、大丈夫でしょう。早渚さんもいつまでもビビってないで滑っちゃいましょう、それでもついてるんですか」 「え?つ、ついてるって何がですか?」 怪訝な顔で花梨さんを見やると、花梨さんは 「やだもう早渚さんってば!うら若い乙女にそんな事言わせようだなんて!」 ばしっと私の背中を強く叩きました。当然、滑り落ちる私。 「ああーーーー!」 どうも私にはセンスが無かったようです。玄葉みたいにまっすぐ滑っていけずに、カーブしつつ滑ってしまった上に、その先はジャンプ台めいた地形になってました。成す術もなく、空中に頭を下にして放り出される私。死んだかもしれない。 「早渚さん、動かないで下さい!」 私の頭が着地する前に、花梨さんが下に滑り込んできて私をお姫様抱っこの態勢でキャッチしてくれました。そのまま斜面の下まで滑り降りて、安全に停止。私の顔を覗き込みます。 「早渚さん、お怪我はありませんか?」 やだ、カッコいい。私はこくこくと頷くしかできませんでした。 「お兄、お兄。メスの顔になってる」 「桜一文字!あなたまたそうやって人を誑かして!あなたがそんなだから、お屋敷のメイドたちの間で『桜一文字さんのイケメンっぷりを語る会』なんてものが開かれる始末ですのよ!」 何それ。でも分かるかもしれない。きっと普段から周りのメイドさんを助けているんだろうな。 「お嬢様、私そろそろ危険エリアのチェックに戻りますんで。玄葉さんより早渚さんの方が危なさそうだから、ちゃんと見ててやってくださいよ」 そう言って花梨さんは私を下ろすと、さっそうと頂上行きのリフトに向かって行きました。とりあえず私は、なだらかなところで滑る練習からスタートになり、晶さんと玄葉は私を視界に収められる範囲で斜面を滑っていました。その内に花梨さんの仕事も終わり、私も何とか低層エリアの斜面くらいは滑れるようになります。その後は高い所からのスタートにチャレンジしてみたりしながら4人で遊んで時間は過ぎ、私たちは旅館へ引き上げたのでした。 ※スキー板の成功率が割と低かったので、奇をてらって『アダムスキー型UFOが雪山を滑る』とかにしようかとも思いましたが、旅館に引き上げたあとのエピソードも浮かんでしまったのでアダムスキーは一回お預けです。ちなみに旅館に引き上げた後のエピソードは入浴シーンを含むのでR-18にしてあります。 【R-18】4人だけのスキー場 https://www.aipictors.com/r/posts/538184