いいね 20
Bungakuシリーズ:005 ─ 夏雲文庫/スマホ壁紙アーカイブ
【夏雲文庫】 古い本を抱えて坂を下ると、 潮の匂いが昨日より近く感じられた。 町の屋根を越えて立ち上がる入道雲は、 空の奥に見えない道をつくっていた。 十年前の夏、 兄はあの雲の向こうへ行くのだと言い残し、 港から一度も戻らなかった。 けれど今朝、 差出人のない葉書が一枚だけ届いた。 青い海と、 見覚えのある筆跡で書かれた短い言葉。 坂の先で待つ。 少女が顔を上げると、 雲の切れ間から光が海へまっすぐ降りた。 その道がどこへ続くのか確かめるように、 彼女は歩幅を少しだけ速めた。

