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秘密のハグ

放課後職員室の片隅、夕方の空気が少し肌寒い。 紫峰怜花は、くしゃみをひとつ。 「風邪でしょうか」 声をかけてきたのは、帰り支度を終えた狭霧華蓮だった。 「んー、たぶん冷房のせいかも。大丈夫、気にしないで」 「……体温が低下すると免疫が落ちます。特に女性は冷えに弱い」 「そうね……ありがとう」 怜花が笑って受け流すと、華蓮は少しだけためらったあと、ポケットから小さなカイロを取り出した。 「これをどうぞ。まだほんのり温かいです」 「わ、ありがと……優しいのね、華蓮さんって」 「理にかなっているだけです。体温の保持には即効性があるので」 そう言いながらも、彼女は一歩だけ近づいた。何か言いたげな、でも躊躇うような目。 「……先生」 「なに?」 「ひとつ、実験をしてもいいでしょうか」 「実験?」 「はい。“ハグ”という行為が、心理的・生理的にどれほど体温に影響を及ぼすかの確認です」 「え、ちょっと待って、それって――」 言い終わらないうちに、華蓮はそっと腕を回してきた。 まるで羽のように軽い抱擁。でも、そこには確かな体温があった。 「……こうすると、オキシトシンが分泌され、副交感神経が優位になります。結果として、安心感が生まれ、身体が温まるのです」 「……へ、へぇ〜……詳しいのね……」 怜花の耳まで、じわりと熱くなる。 数秒後、華蓮は何事もなかったようにすっと離れた。 そして、ひと言。 「今のは実験です。正式な記録には含めません」 「……え……!?」 「でも、先生、顔色が少しよくなりました。……効果はあったようです」 そう言って、華蓮はふっと微笑んだ。どこか意地悪だけど、やさしい笑みだった。 「……もう、びっくりしたわ、ほんとに……」 怜花は頬を赤くしながら、カイロを握りしめた。けれど、もうそれに頼る必要はなかった。 放課後の空気はまだ冷たいけれど、胸の奥はほんのりとあたたかい。 そのぬくもりは、記録には残らないけれど、記憶にはきっと、長く残る。 秘密の記憶として……

コメント (4)

へねっと
2025/05/21 13:27

ピッカ

2025/05/21 13:55

五月雨
2025/05/21 12:44

ピッカ

2025/05/21 13:18

タカ
2025/05/20 23:00

ピッカ

2025/05/21 11:29

謎ピカ
2025/05/20 19:32

ピッカ

2025/05/21 11:28

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