いいね 20
世界が輪郭を失う前に/スマホ壁紙アーカイブ
【世界が輪郭を失う前に】 朝なのか夕暮れなのか、 もう誰にも分からなかった。 男は水の上を歩き、 少し遅れて一羽の鶴がついてきた。 足元には二人の姿が映っていたが、 波紋が広がるたび、 帽子も羽根もゆっくり形を崩していった。 彼は振り返らない。 振り返れば、 ここまで連れてきた記憶まで消えてしまう気がした。 やがて白い地平の先で、 古い鐘の音が一度だけ響いた。 鶴は立ち止まり、 水面の中の男だけが先へ歩いていった。 世界が輪郭を失う前に、 彼は最後の名前を胸の中で呼んだ。
