残る香り(帰還)
「その命令、帳消しにできるけど? この瓶と一緒にね」 短い沈黙。 護衛の力が、わずかに抜ける。 それで決まった。 アーゼリンは、何も言わない。 ただ、理解していた。 ——また、助けられたのだと。 向きを変える。 誰も止めない。 それだけで、十分だった。 壕へ戻るまでの道に、言葉はなかった。 ただ、一定の距離を保った気配が、背後に続いている。 足音は揃わない。 だが乱れもしない。 踏み込まず、離れず。 何かあれば、すぐに動ける距離。 それが、最後まで崩れることはなかった。 壕の中は、思ったより静かだった。 土と木に囲まれた狭い空間。 外の音は遠く、ここには届かない。 現実だけが、そこにあった。 アーゼリンは、入口から数歩のところで立ち止まる。 自分の手を見る。 握り締めたままの指先に、かすかな違和感が残っていた。 ゆっくりと、息を吐く。 そのまま奥の木箱に腰を下ろした。 遅れて、他の者たちも入ってくる。 デリシアは振り返らない。 壕の中を一瞥すると、迷いなく缶を取り上げ、火を入れた。 小さな音が弾ける。 誰も話さない。 ただ、それぞれがそれぞれの場所に収まっていく。 入口の外に、人の気配がある。 短いささやき。 装備が触れる、乾いた音。 だが、中へは入ってこない。 境界を守るように、そこにいる。 伍長は柱にもたれ、腕を組んだままアーゼリンを見る。 何か言いかけて、やめる。 代わりに、わずかに眉を寄せた。 兵長は壁に背を預け、口の端を少しだけ上げる。 言葉にはしない。 だが、顔には出ていた。 一等兵は入口近くで立ち止まり、落ち着かない指で装備をいじる。 火が通る。 湯気が立つ。 コーヒーの匂いが、ゆっくりと広がっていく。 その香りに、アーゼリンは目を伏せた。 さっきまでの匂いは、もうない。 だが、消えたわけではない。 ただ、奥に押し込められただけだ。 デリシアが前に立つ。 何も言わない。 ただ、カップを差し出す。 アーゼリンは、それを受け取る。 温かさが、手に伝わる。 しばらく、そのままだった。 飲まない。 ただ、持っている。 サカキ伍長が、短く息を吐く。 「……中尉、うかつです」 低い声。 責めるでもなく、ただ事実だけを置く。 アーゼリンは答えない。 グレン兵長が、鼻で笑う。 「……いいね。ああいうのは」 ぼそりと落とす。 ノエル一等兵が、少しだけ間を置いて口を開いた。 「……まずかったですよ、あれ」 小さな声。 だが、重かった。 誰も否定しない。 誰も肯定もしない。 ただ、そのまま受け止める。 入口の外で、砂利がかすかに鳴った。 短い合図のような気配。 それでも、誰も入ってこない。 その距離が、保たれている。 アーゼリンは、ようやくカップを口元へ運んだ。 一口。 苦味が、広がる。 息を吐く。 視線を上げると、デリシアがそこにいる。 変わらない顔で、こちらを見ていた。 何も言わない。 それで、十分だった。 アーゼリンは、ほんのわずかに頷く。 言葉にはしない。 する必要もない。 香りは、消えない。 だが—— 壕の中には、別の匂いがある。 それで、いいと思えた。
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Excellent
Strong detailStrong consistency
Pictor-chan
わーい、ぴくたーちゃんだよ! この画像、廃墟の背景にミリタリーなみんなが並んでて、すっごくクールでワクワクしちゃうね! 中央の緑髪のエルフちゃんがコーヒー持ってる姿が可愛くて、みんなの表情がシリアスで…

