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蒼穹のフロンティア【星の残響】
戦闘後の補給と整備のため、第7機動艦隊は中立コロニーへと寄港した。 人工重力に満たされたその場所は、戦場の緊張とは無縁の、どこか現実感の薄い静けさに包まれている。 損耗した機体の整備、クルーの疲労回復、そして――戦い続けてきたパイロット達の精神安定のため、異例とも言える数日の休暇が与えられた。 「……休めって言われてもね」 アリシアは苦笑する。 体は止まっても、心はまだ戦場に残っている。 そんな中、彼女はコロニーの外れへと足を運んでいた。 理由ははっきりしない。 ただ、“静かな場所”を求めていた。 そこで、彼と出会う。 補修跡の残る外壁区画。 誰も寄り付かないその場所で、青年はひとり、宇宙を見上げていた。 ――それが、最初だった。 それから数日。 短い休暇の中で、二人は自然と同じ時間、同じ場所にいるようになる。 特別なことは何もない。 ただ話すだけ。 時には何も話さず、並んで宇宙を眺めるだけ。 それでも―― それが不思議と心を軽くした。 ある日、彼がぽつりと言う。 「……この時間、終わるんだよな」 休暇が終われば、彼女は戦場へ戻る。 「ええ」 短い答え。 沈黙が落ちる。 「じゃあさ」 少しだけ迷うように、彼は続けた。 「最後くらい、ちゃんと“普通の時間”を過ごさないか」 その言葉に、アリシアは少しだけ目を伏せる。 “普通”―― それは、今の彼女にとって最も遠いものだった。 けれど。 「……いいわ」 気づけば、そう答えていた。 彼の部屋は、コロニーの一角にある簡素な居住区だった。 決して広くはない。 けれど、生活の温もりが残っている場所。 壁には古い写真。 家族だった人たちの笑顔。 「……残ってるの、これだけなんだ」 彼はそう言って、少しだけ笑う。 その笑顔に、アリシアは何も言えなかった。 食事を共にし、他愛のない話をする。 戦いとは無縁の時間。 それはどこかぎこちなくて、 けれど確かに――心地よかった。 夜。 コロニーの灯りが落ち、 部屋の中は静かな暗闇に包まれる。 「……怖いんだ」 不意に、彼が呟く。 「また全部なくなるんじゃないかって」 その言葉は、まるで自分の中の声のようだった。 アリシアもまた、同じ恐怖を抱えている。 失うこと。 残されること。 その繰り返し。 だからこそ。 何も言わずに、距離が近づく。 言葉では埋められない隙間を、ただ、温もりで埋めるように。 それは、特別な約束ではない。 未来を誓うものでもない。 ただ――“今、この瞬間だけは独りじゃない”そう確かめるための、静かな選択だった。 朝。 差し込む光の中で、現実がゆっくりと戻ってくる。 戦場も、責任も、すべて。 「……行くのか」 「ええ」 それ以上の言葉はいらなかった。 部屋を出る前、彼は一言だけ告げる。 「生きて、またここに来てくれ」 アリシアは少しだけ振り返り、「……約束はしないわ」 そう答える。 けれどその瞳には、確かに“迷い”が残っていた。 それでも彼女は歩き出す。 戦うために。 けれど――あの一夜の温もりは、確かに彼女の中に残った。 折れないための、小さな光として。
本編キャラクターによるスピンオフ作品

