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秘密のフードコート
放課後のフードコートは、制服姿の学生たちで賑わっていた。けれどその中で、ひときわ異彩を放つのは、誰あろう狭霧華蓮だった。 テーブルに肘をつき、大きなトリプルチーズバーガーを片手に持つ彼女は、じつに満足げな顔でにっこりと笑っていた。制服の胸元にはリボンの宝石飾りがきらめき、透けるような白いブラウスにハンバーガーのソースが一滴…ついている。 「……どうしてあなたは、そんなに優雅にジャンクフードを食べられるの?」 目の前に座った紫峰怜花は、困ったような、そして少し呆れたような声で言った。新米教師である彼女にとって、生徒とフードコートで偶然出会うのは想定外の展開だったが、それよりも――華蓮の姿がまるで雑誌の一枚のように完成されすぎていて、逆に現実感がなかった。 「先生、これは重力との戦いなんです」 「……は?」 「この高さ、この重量、この重なり具合。普通の生き物には一口でかぶりつけない。だけど、それをやるのが“人類の進歩”ってやつです」 紫峰は思わず笑った。「あなた、さっきまで量子力学の課題レポート書いてたわよね?」 「はい。でも今はチーズの溶け具合について考えてます。脳は切り替えが大事なんです」 そう言って、華蓮はまた大口を開けてハンバーガーに食らいついた。頬についたソースを気にする様子もなく、その青い瞳はきらきらと輝いていた。 「それ、すごく高カロリーよ?」 「大丈夫です。先生、私、心の代謝は高いんです」 「心の代謝って何よ……」 呆れながらも、紫峰の表情はどこか緩んでいた。 「一口どうですか? この世界も、悪くないですよ」 ハンバーガーの香りと、揚げたてのナゲットの湯気に包まれながら、紫峰怜花は少しだけ頷いた。 「……じゃあ、フライドポテト一本だけ、借りるわね」 「ようこそ、こちらの多元宇宙へ」 彼女たちのささやかな午後は、ハンバーガーと笑い声で彩られていく。