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気はやさしくて 力もち
バットと弁当でアーチを描け! エルフ戦士ランチェシア 新学期早々、エルフ族の戦士ランチェシアは校門前を軽やかに駆け抜けていた。長い金の髪を風になびかせながら、彼女は大事そうに腕いっぱいの鞄を抱えている。そしてそのまま角を曲がった瞬間、ドワーフの男子生徒・ドルバルと弾かれたようにぶつかった。 「うわっ、すまん!」 ドルバルが小柄な体でなんとか衝撃を受け止めると、ランチェシアはよろめきながら派手に鞄を落とした。中身がゴトゴトと音を立てて散らばっていく。 「きゃあっ! あ、弁当が!」 ランチェシアの悲鳴に、ドルバルは思わず周囲を見回す。 「なに? それ、ただの鞄だろう?」 しかし当のランチェシアは、落ちた鞄を抱え込むように拾い集めている。よく見ると、ちらりとのぞいているのは大きな弁当箱だ。 「いや、中身は全部弁当箱なので……」 「えっ……お前は、ドカベンか?」 ドルバルは目を丸くし、ランチェシアの鞄からあふれ出る弁当箱に唖然とする。ランチェシアはぺろりと舌を出して笑う。 「いやいや、ドカベンじゃなくてランチェシア。エルフなのに、なぜか弁当が好きでさ。」 その瞬間、ドルバルは我に返って鋭くツッコミを入れた。 「冗談、顔だけにしろよ」 「そ、そんな酷い!」 なにやらドタバタと騒ぎながらも、次第に二人は意気投合する。教室に落ち着いた頃、ドルバルはふとランチェシアの腕の筋肉に気づいた。エルフにしては少し逞しすぎるのではないか。まるで重い鉄鍋を長年振るってきた料理人のようだ。 「お前、意外と腕力あるんだな。剣より重たいフライパンでも振り回せそうだ」 「ずっと山で鍛えててね。あと、弁当の食材は素材から収穫が基本なんだよ。うちの里の畑を耕すところから始めるから、筋肉ついちゃってさ」 自慢げに笑うランチェシアを見て、ドルバルはますます呆れつつも興味が募る。するとクラスの担任であるギルド教師が入ってきて、野球部の新入部員募集を張り出した。急に輝くランチェシアの瞳に、ドルバルはなんだか胸騒ぎを覚える。 「野球部だって? あれって仲間と一緒に何かを作り上げるんだろう? しかもバットで大きなアーチを描くって、弁当を詰めるのによく似てる!」 「は? どこがどう似てるんだ?」 「だって、野球ってさ…9人分の役割をうまく並べてひとつの舞台を作り上げるんだよ。恋と一緒だな……あ、今のはちょっと言ってみたかっただけ!」 ランチェシアは照れ隠しか、バタバタと弁当箱を鞄に戻しつつ熱い視線を入部届に注ぐ。ドルバルはそういう理屈になぜか納得してしまう自分がおかしかった。 その日の放課後、二人は揃って野球部の見学に行った。広いグラウンドには新入部員もちらほらと集まっていて、なかにはオークやゴブリンなど多種多様な種族が白球を追いかけている。コーチを務めるのはヒューマンの元プロ投手。長い耳を揺らすエルフの戦士がグローブを抱えてやってきたのを見て、高らかに笑い声をあげた。 「エルフが野球か。面白いじゃないか。さんざん森で狙撃の練習して、弓は得意だろう? それならコントロールも高くなりそうだ」 彼の言葉にランチェシアは嬉しそうに首を振る。 「弓より重い弁当箱ばかり扱ってきたから、投げるのも得意かも。なんならコシヒカリを180kmの豪速球で投げられるかもね」 「そんなわけあるか! いくらなんでもそこまで強肩じゃないだろ」 思わずドルバルが声を上げると、ランチェシアはしれっと言い返した。 「まあ、弁当の詰め方ひとつとってもロマンだよ。恋と一緒だな??なんちゃって!」 「さっきも似たようなこと言ってただろ。大丈夫か、お前」 「大丈夫大丈夫。こう見えて空気は読むタイプ……だといいな」 かくして二人は勢いに任せて入部を決める。最初はプレーの基本を学ぶだけで手いっぱいだったが、ランチェシアは驚くほどの吸収力を見せた。ドルバルもそれにつられて、持ち前の堅実さを生かして守備が上達する。どこか噛み合わない掛け合いをしながらも、二人は練習に励んでいった。 こうして突拍子もないエルフと生真面目なドワーフのコンビは、甲子園という大舞台を目指し始めたのである。 夜の空は、星々が踊りながら淡い光で大地を包み込みます。さざなみのようにゆったりと揺れる雲は、まるで遠い昔の幻影を映し出しているかのように優雅です。穏やかな風が草原を撫で、そこにはどこか未知なる可能性の香りが漂います。彼らの声と笑顔は、次なる戦いを予感させる鼓動となり、野球のボールが描く弧とともに夜空へと響き渡ります。ランチェシアとドルバルの軌跡は、星のきらめきに導かれ、大いなる未来を切り開いていくのです。彼らの物語は、まだまだ続きます。どうか、風のささやきに耳を澄ませながら、その一歩一歩を見守ってあげてください。 --------- ドカベンのパロディ。 全く調べてませんがたしかこんな感じ。