「ねぇ引田君、この規約おかしくない?」
放課後の図書室で、アイちゃんが私立探偵のような真剣な表情でスマートフォンを見つめていた。
「どれどれ?」
覗き込んだ画面には、あるAIイラスト投稿サイトの利用規約が表示されている。
「まず、この規約の更新日が11月24日になってるけど、昨日改定されたはずなんだよね」
「へー、更新日の管理できてないのか。でも、それくらいなら…」
「そこから先がもっとおかしいの!」アイちゃんは指でスクロールしながら続けた。「昨日追加された『形状が性器に見えるものが描写された作品を、全年齢向け作品として投稿する行為』って項目があるんだけど、この位置おかしくない?」
「どういうこと?」
「これ、禁止事項のリストの中に入ってないの。単に文章が浮いてるだけ。文章としても主語と述語がないから、これが禁止されているのかどうかすら分からないんだよ」
「なるほど。規約として致命的な不備だな」
「でしょう? しかも性器に見えるって、どういう基準なの?」
「確かに曖昧だな」
「アワビとか、先端が細くなった煙突とか、いろんなものが引っかかりそうじゃない? ダグトリオだって、あれって3つで1つの形だから、場合によっては…」
「ダグトリオまで巻き込むのか!」引田君は思わず吹き出した。
「笑い事じゃないよ!」アイちゃんは真剣な表情で続けた。「そもそも、AI生成画像に著作権がないって知ってる?」
「ああ、確かそんな話を」
「なのに、この規約では『利用者は、自身が投稿する作品の著作権を保持していることを保証し』って書いてあるの。そもそも著作権が発生しないものの著作権を保持できるわけないじゃない」
「法的に矛盾してるな」
「しかも、Googleの画像生成AIとかだと、アニメキャラクターを描けちゃうの。その場合、著作権って誰のものになるんだろう?」
「それは確かに難しい問題だ」
「あと、『過度に残酷』とか『過度な宗教、政治活動』とか、『過度』って言葉がやたら多いんだけど、その基準が全然書かれてないの」
「主観的すぎて判断できないってことか」
「そう! さらに性的表現の定義が本来の定義セクションにないの。生成機能の利用制限の中にしか書いてないんだけど、『水着』『肌の露出の多い衣装』『えっちなポーズ』って、これも具体的にどこまでがOKなの?」
「これも曖昧だな…」
「運営側の対応もおかしいよ。問い合わせには個別に回答しないって書いてあるのに、『規約について疑義が生じたときは協議する』って。どうやって協議するのよ!」
「矛盾してるな、それは」
「しかも、事前確認の方法もないし、弁明の機会もないまま、アカウント停止されることだってあるの」
「それは怖いな…」
「そして、他の作品と比較した判断結果については問い合わせできないんだって。同じような作品なのに、片方はOKで片方はダメってことが起こり得るってことでしょ?」
「つまり、判例の積み重ねができないってことか」
「そう。予見可能性がないんだよ。これじゃあ、何を投稿していいのか分からない」
「あ、それと社名の表記も古いままだな。TwitterじゃなくてXに変わったはずなのに」
「細かいところまでちゃんと見てるじゃない」アイちゃんは感心したように引田君を見た。「こういう規約の不備って、ユーザーの権利を著しく制限することになるんだよね」
「確かに。事前確認も弁明もできず、基準も曖昧で、しかも判断が一貫しないとなると、萎縮効果も起こりそうだ」
「そうそう! だから私、これを小説にして投稿しようと思うの。この規約には『小説について、AIを利用していない創作物も掲載できます』って書いてあるから」
「なるほど。規約の問題点を、規約で認められた方法で指摘するってわけか」
「賢いでしょう?」アイちゃんは得意げに笑った。
外は夕暮れ。図書室の窓から差し込む夕日に照らされて、アイちゃんのスマートフォンの画面が小さく光っていた。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【小説】規約を読む【約2200文字:4~5分で読めます】
本小説内の意見はAIの意見であり、筆者の意見を代弁していません。 肌の露出、えっちなポーズの基準において性的な要素を含むと指摘される可能性があるため、本サイトに付属の機能を使用し適切にモザイク処理しております。