沈む部屋
古びたタイルに囲まれた薄暗い部屋、その中央には深い四角い水槽があり、彼女はその中に身を沈めていた。冷たく濁った水が彼女の足を包み、手錠をかけられた手は無力に膝の上に置かれている。少女の名前はミカ。この場所に閉じ込められてどのくらい経ったのか、もう時間の感覚は完全に失われていた。 水槽の中で膝を抱えるようにして座るミカの周囲には、ただ静寂だけが広がっていた。時折、壁のタイルに残された赤いシミが視界に入り、その不吉な痕跡が彼女に恐怖と孤独をさらに強く感じさせた。「出口はどこに…」と彼女は思ったが、この閉ざされた空間に出口は見当たらなかった。扉は重く閉ざされ、外の世界とは断絶されている。 部屋の片隅には、何か古びた電源コードが絡まって置かれており、その先がどこに繋がっているのか分からなかった。それはまるで、彼女の運命がどこか見えないところで操られているかのような、不気味な暗示のようだった。ミカはそのコードをじっと見つめながら、胸に込み上げてくる不安をどうにか抑えようとしたが、それは次第に涙となり、頬を伝って水槽の水面に落ちていった。 突然、どこからともなくかすかな物音が聞こえた。それはまるで、誰かが遠くで何かを動かしているような音だった。心臓が鼓動を速め、ミカは息を潜めてその音に耳を傾けた。その音は次第に近づいてきているように感じられた。彼女は水槽の中でさらに身を縮こませ、できるだけ小さくなるようにして、何かから身を守ろうとした。 音は次第に大きくなり、まるで部屋の外に誰かがいるような気配がした。その瞬間、ミカの体は恐怖で硬直し、冷たい水がさらに冷たく感じられた。扉の向こうで何かが動いている。そして、その何かがゆっくりと扉に近づき、手をかけているかのような音がした。 「来ないで…」彼女の心の中でそう叫んでも、声には出なかった。扉の向こうにいる存在は何なのか、その正体を知りたくないという思いが彼女を強く支配していた。ただ、その存在が彼女をここから救い出すものでないことは明らかだった。 暗い空間の中で、ただ水の冷たさと絶望だけが彼女を包み込んでいた。部屋の壁には「出口なし」と書かれた文字がかすかに見え、それが彼女の心にさらに重くのしかかった。この部屋から出ることはできないという現実が、彼女の胸に突き刺さるようだった。 その時、外の音が突然止んだ。静寂が戻り、再び彼女の心臓の音だけが響く。しかし、その静寂は恐怖を和らげるものではなく、むしろ次に何が起こるのか分からないという不安を増幅させた。誰かがそこにいる。そして、それはいつでも再び彼女の前に現れるかもしれない。 ミカは震えながら目を閉じ、ただその瞬間が過ぎ去るのを待ち続けた。冷たい水の中で、彼女は自分がここでどうなるのかを考えることをやめた。希望はどこにもなく、ただ暗く冷たい絶望が彼女の未来を支配していた。水面に浮かぶ自分の影を見つめながら、ミカはこの暗い部屋で一人、沈みゆく自分自身を感じていた。