神罰、そして真聖女の爆誕
村に到着した一行は、さっそく今後の行動について打ち合わせを始めていた。 今回の目的は、至高神ファリアに仕えるアセリアの神官としての公務。 その一方で、近隣に出没する狼や猪への対処も依頼されている。護衛と討伐を兼ねた、れっきとした仕事である。 「では、まず討伐対象の目撃情報を整理しましょう。狼の群れは――」 「ふん。猪のほうが厄介かもしれんな」 リリスが腕を組み、チェルキーも真剣な顔で頷いた。 「畑を荒らしているなら、放っておけませんね。村の方から詳しく聞きましょう!」 ところが。 「……あれ?」 アセリアが周囲を見回した。 「シャーリーさんは?」 「……さっきまで、そこにいたはずだが」 リリスの眉間に皺が寄った。 「えっ!? シャーリー先生、またいなくなったんですか!?」 チェルキーが振り返る。 その頃、村の教会では――。 「皆様、ご覧あれ!」 教会の屋根の上。 白い修道服をまとったシャーリーが、両腕を大きく広げていた。 「ふひひひひ! 天より舞い降りし、神聖なる――」 「おお……!」 「神様じゃ……!」 畑仕事の手を止めた村人たちが、口々に感嘆の声を上げる。 逆光を背負った黒髪の神官。その姿は、なるほど、神々しく見えなくもない。 「ふひひ、いざ!」 シャーリーは屋根から華麗に飛び降りた。 「のわっ!?」 次の瞬間、着地に失敗。 盛大な音を立てて、泥の中に突っ込んだ。 「…………」 「…………」 静寂。 「……神様?」 「ふひひひひ。これは、その……大地の祝福ですぞ~」 泥だらけのシャーリーが立ち上がった、そのときだった。 「きゃっ!」 騒ぎに驚いた子供が転び、膝を擦りむいてしまった。 「おやおや。痛いですかな?」 シャーリーは子供の前にしゃがみ込むと、手をかざした。 柔らかな光が傷を包む。 「あれ……? 痛くない!」 「ふひひ。よかったですな~」 「神様だ!」 「神様が奇跡を起こされたぞ!」 「いえ、神ではないですぞ~?」 シャーリーが否定するほど、村人たちの祈りは熱を帯びていった。 そして、その騒ぎを聞きつけた者がいる。 「シャーリー先生~~~~っ!!」 緑髪を高い位置で結んだチェルキーが、巨大な木製棍棒を担いで駆け込んできた。 その名も、風林火山。 「任務の打ち合わせ中に、何をやってるんですか~~っ!!」 「ふひっ!?」 シャーリーの顔が引きつった。 「ええい、待ちなさーい!」 「ふひひひひ! これは神聖なる儀式ですぞ! 暴力はいけませんぞ~!」 「だったら、ちゃんと仕事してくださいっ!」 チェルキーが風林火山を振り上げる。 轟音。 シャーリーは紙一重でそれをかわした。 「おおっ! 神罰だ!」 「神の怒りじゃ!」 「悪しき者が裁かれておる!」 村人たちの目には、神聖な裁きの光景にしか見えなかった。 「ちょっ、待っ――」 シャーリーの姿らしきものが、空の彼方へと飛んでいく!?。 青空に、小さな光がきらりと瞬いた。 「お星さま!」 子供が指さす。 大人たちは跪き、深々と頭を垂れた。 「神罰が下ったのだ……!」 「…………当たったんでしょうか?」 風林火山を構えたまま、チェルキーは首を傾げた。 そのとき。 「皆様! ご安心ください!」 いつの間にか、村人たちの前にシャーリーが立っていた。 今度は白い修道服ではない。赤い二重ラインの入った制服姿である。 「悪しき魔女は討滅され、正しき聖女が降誕されましたぞ~!」 「えっ?」 シャーリーが、横に立つ少女へ手を差し伸べた。 「それでは皆様、お待たせいたしました! 皆様をお救い下さる真打の登場ですぞ~! 真聖女、アセリア様!」 「えっ、わ、私ですか!?」 白い神官服のアセリアが、目を丸くした。 「ちょ、ちょっとシャーリーさん!? いったい何を――」 しかし、村人たちの視線は、すでに彼女へと集まっていた。 アセリアは困惑しながらも、胸元の聖印をそっと握りしめる。 そして、一度深呼吸した。 「……皆様。どうか、恐れることはありません」 少女の声は、まだ少し震えていた。 「神様は、光の下でいつでも私たちを見守ってくださっています。良き行いには祝福を。そして、悪しき行いには……罰が下されることもあるでしょう」 村人たちは静かに耳を傾けた。 やがて、一人が祈りを捧げる。 それに続いて、村人たちが次々と跪いた。 「おお……真聖女様……!」 「…………ふひひ」 シャーリーは満足げに笑った。 その背後で。 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。 風林火山を肩に担いだチェルキーが、ゆっくりと歩み寄ってくる。 「……シャーリー先生?」 「ふひ?」 「まだ、打ち合わせが終わってませんよね?」 「ふ、ふひひ……。アセリア殿、あとはよろしくですぞ~!」 「あっ、こらーっ! 逃げないでください!!」 「ふひひひひひ!!」 真聖女の誕生を祝う祈りの声と、村中に響き渡る追いかけっこの足音。 こうして村には、神々しい奇跡と神罰の伝説が生まれた。 ――なお、狼と猪の討伐任務は、まだ始まってもいない。

