いいね 19
Bungakuシリーズ:002 ─ 透明な喫茶店/スマホ壁紙アーカイブ
【透明な喫茶店】 雨脚が強くなるたび、 窓の向こうの街は輪郭を失い、 店だけが水の底に残されたように静まった。 彼女は冷めかけた珈琲に口をつけ、 向かいの空席へ一度だけ目を上げた。 約束の時刻はとうに過ぎていたが、 卓上の小さな花瓶には、 今朝までなかった白い花が一本挿されている。 店主に尋ねても、 彼は古いカップを磨きながら微笑むだけだった。 やがて雨が薄くなり、 硝子に重なっていた街と店内の灯りがゆっくり離れていく。 彼女は席を立つ前に、 花の茎へそっと触れた。 その瞬間、 誰もいない椅子がわずかに軋み、 珈琲の表面に小さな波紋が広がった。
