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灼陽墜落(しゃくようついらく)のエルフ姫騎士
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宇宙に、悲鳴が響いた。 「――あっつううううううううううううううッ!!?」 それは真空の闇では音にならなかったが、本人の心の中では確かに絶叫だった。 白銀の髪を燃える恒星風に煽られながら、一人の女戦士が宇宙空間を全力で飛んでいた。 名は**リュミエラ・アルセリア**。 千年森の王国に生まれた純血のハイエルフ。 弓術、剣術、精霊術、そのすべてを極めた若き戦士であり、王家直属の空挺騎士団長でもある。 尖った耳。 透き通るような白肌。 鍛え上げられた四肢。 そして神々すら見惚れると噂される美貌。 しかし今、その高貴なる姿は半泣きだった。 なぜなら彼女は現在、**蝋で固めた巨大な鳥の羽根**で空を飛んでいたからである。 ## 第一章 愚かな挑戦者 事の始まりは三日前。 王都アストレリアの大広間にて、賢者たちがこう言った。 「太陽の近くには古代文明の秘宝《暁星核(ぎょうせいかく)》が眠っている」 するとリュミエラは腕を組み、鼻で笑った。 「ならば私が取ってこよう」 「無理です陛下直属騎士団長! 太陽ですぞ!?」 「熱いだけであろう」 「熱いだけでは済みません!」 「ふん。私を誰だと思っている」 「せめて船を使ってください!」 「遅い」 「え?」 「羽根で行く」 「羽根!?」 こうして彼女は王都の巨大鷲舎から最強種《雷翼グリフォン》の羽を大量に集め、職人に命じて特製飛行翼を作らせた。 構造は単純。 * 軽量骨格ミスリルフレーム * 超大型鳥翼 * 接合部は魔法蝋で補強 * 推進力は根性 賢者たちは泣いた。 「それイカロス案件です」 「知らぬ」 「神話で失敗してます!」 「私は神話を更新する女だ」 誰にも止められなかった。 ## 第二章 太陽接近 最初は順調だった。 地上から飛び立ち、成層圏を抜け、月軌道を超え、魔力推進で宇宙へ。 エルフの身体は人間とは違う。 骨密度は鋼鉄並み。 肺は魔素循環器官を兼ね、真空でも呼吸不要。 皮膚は精霊膜を纏い放射線を弾く。 つまり、かなり無茶が効く。 「見よ! 星々が私を祝福している!」 白銀の髪をなびかせ、リュミエラは宇宙を滑空した。 だが太陽が近づくにつれ、事態は変わった。 まず暑い。 尋常ではなく暑い。 額から汗が噴き出し、防具が熱せられ、胸当てが鉄板焼き状態になった。 「ま、まだいける……」 次に眩しい。 瞳が焼けるような輝きに涙が止まらない。 「う、うおお……なんだこの光量は……!」 そして決定打。 背中から**ぽたり**と何かが落ちた。 振り返る。 翼の根本で蝋が溶けていた。 「……あっ」 ぽたり。 ぽたり。 ぽたり。 「いや待て待て待て待て待て」 翼がぐにゃりと曲がる。 「職人ーーーーーーーッ!!」 ## 第三章 太陽フレア襲来 その瞬間だった。 太陽表面が盛り上がった。 巨大な紅蓮の弧。 磁気ループが千里万里に伸び、恒星表面から火炎の津波が噴き上がる。 太陽フレア。 恒星規模の爆発現象。 リュミエラは口を開けた。 「……綺麗」 次の瞬間。 「って感動してる場合ではないーーーーーッ!!」 爆風じみた荷電粒子流が襲いかかる。 宇宙空間に音はない。 だが彼女の全身には、雷鳴より凄まじい衝撃が走った。 翼は一瞬で焼失。 蝋は蒸発。 羽根は火の鳥になって散った。 リュミエラ本人は回転しながら吹き飛ばされた。 「ぐるるるるるるるるるるるるるるるるッ!?」 視界に太陽、星、闇、太陽、闇、太陽が交互に映る。 彼女は剣を抜いた。 「こうなれば斬る!」 太陽フレアを。 無理だった。 剣は熱で赤くなり、持ち手が熱くて投げた。 「熱ッッッ!!」 さらに磁気嵐が到来した。 鎧の金具に電流が走り、白銀の髪が逆立つ。 「ぎゃあああああああ!」 全身が痺れ、意識が遠のく。 最後に見えたのは、青く小さな星。 ――地球だった。 ## 第四章 墜落 数日後。 日本列島上空。 夏の夕方。 東京都郊外の空に、燃える流星が現れた。 SNSは騒然となる。 > 「え、隕石?」 > 「ドラゴンみたいなの見えた」 > 「美女が落ちてたってマジ?」 燃えながら大気圏突入したリュミエラは、エルフの異常耐久力により生存。 ただし気絶中。 彼女は郊外の河川敷へズドォォォン!!と着弾した。 土煙。 クレーター。 焦げた草地。 そして中心には、煤だらけの美女エルフ戦士。 近所の高校生・真壁悠斗(まかべ ゆうと)は犬の散歩中、それを見つけた。 「……え?」 白銀の髪。 尖った耳。 ボロボロの鎧。 抜群のスタイル。 気絶。 「夢?」 頬をつねる。 痛い。 「現実かよ!!」 ## 第五章 フライドポテト覚醒 悠斗は119番する前に、近くのファストフード店で買った袋を落としていたことに気づく。 袋から転がるフライドポテト。 その香りが、クレーターに漂った。 ぴくり。 リュミエラの鼻が動く。 ぴくぴく。 次の瞬間、彼女の目がカッと開いた。 「……この香りは……!」 飛び起きる。 「芋を油で揚げた禁断の食物!!」 「起きたァ!?」 彼女は悠斗の手から袋を奪い、猛烈な速度でポテトを食べ始めた。 サクサクサクサクサクサク!! 「うまい! 塩! 油! 芋! 完成されている!」 「え、そこ!?」 「これは何という兵糧だ!」 「Lサイズです」 「Lサイズ万歳!」 数分後、全回復した。 エルフの身体は高栄養炭水化物と塩分で再起動するらしい。 ## 第六章 異世界騎士、現代日本へ 事情を聞いた悠斗は頭を抱えた。 「つまり太陽に近づいて羽が溶けて、フレアで吹っ飛んで地球に?」 「うむ」 「……」 「信じぬか?」 「いや、目の前の耳見たら信じるしかない」 リュミエラは真顔で言った。 「この世界、ポテト屋が多い。素晴らしい文明だ」 そこか。 彼女はスマホを見て感動し、自動販売機を魔導具と勘違いし、電車を鋼鉄龍と呼び、コンビニで泣いた。 「二十四時間、食料と甘味が手に入る……神の国か」 ## 第七章 帰還の選択 やがて夜。 河川敷で二人は空を見上げた。 太陽に焼かれ、星を越え、地球へ落ちた戦士は静かに言う。 「帰る方法は、あるかもしれぬ」 「帰りたい?」 しばらく沈黙。 風が吹く。 白銀の髪が揺れる。 「……今は、少し休みたい」 「そっか」 「それに」 彼女はポテトを一本つまみ、笑った。 「この世界には、まだ食べるべき芋がある」 悠斗は吹き出した。 「じゃあ案内するよ。ポテト専門店もある」 「なにィ!?」 目が輝いた。 太陽よりも。 ## 終章 灼陽の彼方で 後にSNSで噂された。 「河川敷に落ちた銀髪美女」 「ポテトで蘇生した女」 「ドラゴンを従えるコスプレイヤー」 真実を知る者は少ない。 だが今日も東京のどこかで、長耳の美女が叫んでいる。 「塩味も良いが、のり塩とは何だ!? 革命か!?」 そして彼女は時折、朝焼けの太陽を見つめる。 あの灼熱。 あの恐怖。 あの壮絶な脱出。 二度と近づくものかと思いながら。 それでも胸の奥には、まだ消えぬ炎がある。 いつか再び空へ。 もっと強い翼で。 蝋ではなく。 ポテト油で。 「それはやめろ」と悠斗は言った。 # 完 あとがき 蝋が溶けるまで太陽に近づいたら地球の重力圏は出るだろうなと思いました
この作品は、宇宙の広大さを背景に、エルフのような白髪の戦士が太陽の輝きを背にドラゴンと対峙する様子を描いた幻想的な一枚です。彼女の表情には静かな決意が宿り、黄金の鎧が細やかに彫琢された美しさが際立ちま
