"An Afternoon of High Synchronicity" - Record of Harbour Fence Training -
空は晴れ、米軍の巨大空母「CVN-82 ドナルド・ジョン・トランプ」が沖に浮かぶ午後。 港の見晴らしのよい埠頭にて―― 「ふふふ……今日は“イメージの投影”で操縦するのよ」 港湾設備のワイヤーロープ柵、その一番上に、見慣れぬ髪型の軍服少女が不安定にバランスをとっていた。 少女――アンジェラ・ミカエラ・ブロント少尉は、いつものきっちりした金髪ポニーテールではなく、 わざわざ苦労して結い上げたツーサイドアップという奇抜な髪型に変えていた。 しかも軍服の上から白いシーツを身体に巻き付けている。 見ようによっては、アニメか何かで見たヒーロー的ポーズ。 布の巻き方もどこかで見たような記憶を刺激するが、なんとも中途半端だ。 だが本人は本気である。 「たしか明日香は、空母の上に立ってたわね。シンクロ率を上げるには“思い込み”が大事なのよ。ふふふ……!」 そう独りごちる少尉は、空母を正面に見据えて、ワイヤーの上で両腕を広げた。 そのシルエットは、かろうじて髪型だけはツンデレヒロインに似ている……ような、気が、しないでもない。 「……Hey! What the hell are you doing up there!?」 米軍のMP(軍警察)が現れ、即座に警戒モードに入った。 「Get down! Step away from the railing!!」 MPのサングラスの奥の目がぎょっと見開かれた。 ツーサイドアップの軍服少女が、シーツをまとってワイヤーの上でポーズ―― 説明不能な光景だった。 「これは再現なんです。2号機が空母に立った瞬間。 制御ではなく、共鳴・・・・・・」 「You’re not on an Eva!! That was an anime!! And it was a mecha!!」 「でも、ほら、ロボットと同調して、ヒロインが白い布巻いて立ってるイメージ……」 「That was artistic framing!! Not standard military procedure!!」 あれよあれよという間に、ブロント少尉は羽織っていたシーツでぐるぐる巻きにされ、MPに肩に担がれていた。 「や、やめたまえっ、このシーツは思念の結界、精神の拡張式装甲なのだぁ……!」 シーツから出た顔だけが必死に抗議しているブロント少尉。 「You are a hazard, ma’am!」 もぞもぞと、芋虫のように無力無様にじたばたする。 その光景に、もう一人の人物がため息をついた。 「――何やってるんですか、少尉……」 現れたのは、富士見二等軍曹。 黒髪ボブの小柄な美女で、冷静沈着な少尉の保護者的存在。 「見てわからないのかね、軍曹。これは訓練だよ。この髪型、この布、この立ち位置! 心の投影による直接制御……!空母に立っていた明日香の――」 「そんな記録は存在しません。そもそも“空母に立っていた”のは人型決戦兵器の方で、しかもアニメです。 あと、あの布は何ですか。……病院のシーツ?どこから?」 「押収された艦内清掃用の布を借用しただけだ。適正な申請も出してあります」 「ありません。今ので罪状増えました」 「……ちっ。芸術とは理解されぬものか……。というか軍曹、髪型はどうだった?」 「似合ってません。痛すぎます。アンタ馬鹿です。すぐやめてください」 ――その日、港に吹く風だけが、アニメと現実の境界をさわやかに揺らしていた。

