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火竜
むかしむかし、私はひとりぼっちの竜でした。 小さな小さな島国の、そのまた離れの火吹き山。 星底から湧き出る炎から生まれて、それからずっと一人でした。 ですがやがて時代は流れ、島には人が住まうようになりました。 鳥どもから聞いた話によれば、この地で採れる石や岩、それに御山のせせらぎが、かたな、と言うものを鍛えるに適しているのだとか。 陽の照る限り、雨のごとく騒ぐ槌の音。 それはとてもやかましく、私の眠りを妨げるものでした。 ですがなぜか、不思議と心地がよくもあったのです。 それから、星が花弁の数ほどに巡った頃でした。 私の塒をひとりの雄が訪れたのです。 精悍な顔立ちの美丈夫が、慈雨のごとき優しげな天上の笑みを――いえ、当時の私はそのように思うこともなかったのですが、ともかくその男は鉄を採りにきたとのことでした。 私の身体を生あるものと思わなかったのでしょう。 その男は私の鱗に無遠慮に触れ、時には背もたれにして休みながら、一心に岩を砕いておりました。 なんと無礼な男でしょう。 私は耐えきれず、尻尾でその男を突いてやりました。 その時の驚きようといったら! 私は笑いに笑い、怒りも忘れて笑い転げてしまいました。 男は逆に怯えに怯え、蛙のように固まっていましたので、私は人の身体を取ったのです。 衣服などという文化など、そのときの私は知らなかったものですから、その、裸体を晒して、です。 すると男は、今度は顔を真っ赤に染めて、慌てて背を向けたのです。人とは斯様に見目に重きを置く生き物なのかと、不思議に思いました。 彼がとりわけ変わった性格だとは、その時はまだ知りませんでした。 それからというもの、陽が七度のぼるたび、男は私に会いに来てくれました。星がひとつ廻るごとに貢物まで持ってきて、なるほど彼は私を神にしたいのかと思ったものです。 ですがまぁ、それは大きな勘違いというものでして。 三度目の贈り物。この着物を授かった時、彼は私を妻にしたいと告げました。 竜たる私を番にするなど、不敬にもほどがあります。 ですので私はこう答えました。 「この鱗、朽ちるまで」 なんというお方でしょうか。 愛ひとつで竜を打ち倒すなど、さすがは私の旦那様。 え? 惚気ではないかと? 最初からそのつもりですが、なにか? まぁ、ともかくです。 それから私と旦那様は共に在りました。 星の廻りを共に眺め、子を成し、彼が老いて去るその時まで。 いまや彼と私の子も大きく育ち、あるものは竜として、あるものは人として、あまねく世界を飛び回っているのです。 そして私はといえば、人里に残ることを決めました。 私が人として在ることこそが、旦那様の愛を示すひとつの形だと、そう考えたのです。 ですが時折、その想いを踏みにじろうとする者も居ます。 名工として名を馳せた旦那様。 その愛を――私には及びませんが――受けた作品たちを奪おうと、無作法者がこの地を荒らすことがあるのです。 この乱世では仕方もないのかもしれません。 只人なれば、従うべきなのかもしれません。 ですが、知ったことですか。 「それ以上の狼藉は許しません」 私は竜。星が産み落とした翼のひとつ。 そして何より、旦那様の妻。 私の鱗、私の翼、私のすべては旦那様のもの。 人にも星にも尽くすものか。あの方こそが私のすべて。 この地を汚すというのならば―― 「灰となって贖いなさい、無作法者」
