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心霊探偵アリス 一章
第1章: 霧の中の呼び声 霧に包まれた東京の下町。古びたアパートの一室で、アリス・鈴木は目を覚ました。22歳の彼女は、一見すると普通の大学生に見えるかもしれない。しかし、アリスには人知れず特別な能力があった。彼女は死者の声を聞き、幽霊を見ることができるのだ。 その朝、アリスのスマートフォンが鳴った。見知らぬ番号からだった。 「もしもし、アリスさんですか?」老婆の声が聞こえる。「あなたの噂を聞きました。私の孫娘が…消えたんです。警察は何も見つけられません。どうか、助けてください。」 アリスは深く息を吐いた。これが彼女の新しい依頼になるのだろう。心霊探偵としての仕事が、また一つ増えたのだ。 「わかりました。お話を伺いたいので、お宅に伺ってもよろしいでしょうか?」 電話を切ると、アリスはベッドから起き上がり、窓の外を見た。霧が街を覆い、建物の輪郭をぼやかしている。その霧の中に、薄い人影が揺らめいているのが見えた。アリスは目を細めた。幽霊だ。この街には、生きている人間よりも多くの幽霊が彷徨っているのかもしれない。 アリスは服を着替え、鏡の前に立った。黒髪のショートカットに、大きな茶色の瞳。華奢な体つきだが、その目には強い意志が宿っている。首にかけた水晶のペンダントが、薄暗い部屋の中でかすかに光った。 「よし、行こう」 アリスは深呼吸をし、部屋を出た。階段を降りる途中、隣人の山田さんとすれ違う。 「おはよう、アリスちゃん。今日も早いね」 「はい、おはようございます」 アリスは軽く会釈をした。山田さんの後ろに、薄い影のような存在が付きまとっているのが見えた。先日亡くなった山田さんの奥さんの霊だ。まだ成仏できずにいるのだろう。アリスは心の中で、いつかその霊を救う方法を見つけようと誓った。 アパートを出ると、霧の中を歩き始める。通りには人影がまばらで、時折霊たちの姿が霧の中に溶け込んでいく。アリスはそれらを無視するよう努めた。全ての霊に関わっていては、身がもたないからだ。 30分ほど歩いて、アリスは目的地に到着した。古い日本家屋の前に立ち、深呼吸をする。そして、玄関のチャイムを押した。 しばらくして、ドアが開く。そこには、電話の向こうで聞いた声の主、老婆が立っていた。 「アリスさん?ありがとうございます。来てくださって」老婆の目は涙で潤んでいた。「私は佐藤ミチコです。どうぞ、お入りください」 アリスは頷き、家の中に入った。玄関を上がると、懐かしい畳の香りが鼻をくすぐる。しかし、その香りの下に、何か異質なものを感じた。アリスの第六感が、この家に何か通常ではないものが潜んでいることを告げていた。 「座ってください。お茶を入れますね」ミチコは台所へ向かった。 アリスは座布団に腰を下ろし、周囲を観察した。古い家具や調度品が、長い歴史を物語っている。しかし、アリスの目は、部屋の隅に集中した。そこに、かすかに人の形をした影のようなものが見えたからだ。 ミチコがお茶を持って戻ってきた時、アリスは尋ねた。 「佐藤さん、お孫さんの話を聞かせていただけますか?」 ミチコは深いため息をついた。「私の孫娘、アヤカです。彼女は…1週間前から姿を消したんです」 アリスは注意深く耳を傾けた。この話の裏に、どんな超常現象が潜んでいるのか。そして、アリス自身がどのようにしてアヤカを救えるのか。新たな事件の幕が、今まさに上がろうとしていた。