「これが……恥ずかしいという気持ち、羞恥心」
視線が気になる。
「強烈に、死んじゃうくらい、恥ずかしいなんて……」
私がハイエルフの里を出て一か月が経った。
「ねぇ、あれ見てよ、うわぁ」
「あんなの服じゃないでしょ」
「丸見えじゃないですか」
「おっぱいもオマンコもおっぴろげて、はしたない」
王都の住民があることないこと私を見てコソコソと会話をしているのが聞こえる。
私はハイエルフ。この耳は伊達に長いだけでなく、超高性能なのだ。
私をエッチだ、はしたない、という声がどんどん聞こえてくる。
私は伝統の衣装を着ているだけのはずなのに。
セーラーの襟、マイクロミニスカート、それにニーソックスと靴。
どこもおかしな格好ではない。
……と思っていた、里を出るまでは。
誰もこんな性器やおっぱいを露出した格好なんてしていなかったのだ。
それらを衆人に晒け出すことは「恥ずかしいこと」だと私は学んでしまった。
自分がもの知らずなのはともかく、バカであれば「伝統衣装を着ている誇り高いハイエルフ」だとでも思って、呑気に表通りを歩いただろう。
しかし、私は聡明にも「羞恥心」を学習し、自らのモノとしたのだ。
学び、考え、自分のモノとすることができる。
実に賢いが、それがこんな……めちゃくちゃ恥ずかしいだなんて、聞いていない。
しかしハイエルフのプライドは、この伝統衣装以外を着ることを拒否している。
自分の中では二律背反の思いがある。
伝統衣装を重んじてそのまま、どんなに極限まで恥ずかしくても、この格好を続ける意志。
こんな服脱いで、もう性器もおっぱいも隠して、人間であるかのように、くっ、下等の人間の猿真似をする自分。
無理だ、どうしても無理だ。
恥ずかしくても、全裸同然の格好をするしか、私のプライドが許されない。
しかし、しかして、恥ずかしい。強烈に、猛烈に。
さっきから頭に血が上って、何も考えられなくなりそうだ。
人々の視線がおっぱい、乳首、性器、それからクリトリス。
私の卑猥な部位にそそがれていることくらい、見ればわかる。
柔らかい丸くてほどよい大きさの自慢のおっぱい。
綺麗なピンクの乳首。
ワレメちゃんから顔をのぞかせているクリトリス。
愛液が垂れているアソコ。
きゅっとすぼまったお尻の穴。
引き締まったヒップライン。
あちこち見えて、見えてしまっている。
私の全裸同然の格好。しかし、ハイエルフの里では普通だったのだ。
王族であるハイエルフの里の住民の中では、そうなのだ。
でも、どうやら知らなかったのは私だけらしい。
エルフの一般市民までもが、普通の服を着ているのを目にしたときには、目を疑った。
そんな、ばかな。
なぜ「布で覆っているのだ」とさえ思った。
しかし、ひと月旅をしてきて分かった。
おかしいのは私たちハイエルフのほうだ。
こんな破廉恥な格好、していいものではない。
「ねぇ、あのお姉ちゃん」
「だめよ、あんな格好、見ちゃ駄目」
「ねえ、あのお姉ちゃん、変な格好してる」
「しー。聞こえたら大変なことになるわ」
聞こえていないと思っていても、全部丸聞こえなのだ。
私への批難の声の数々を聞けば、これがどんな格好だと思われているかだなんて――。
「くぅ……ちくしょう。恥ずかしい、恥ずかしいよ。んんっ」
プルプルと震えてきた。
羞恥心はもうここ王都に来てから、限界であった。
視線が痛い。その数はひとつふたつでは済まず、道の両側、ずっと向こうまで続いている。
超目立っている。誰もこんな格好している人はおらず、人目に晒されている。
しかし、それにも関わらず、誰も私の相手をしてくる人はいない。
完全に「触ってはいけない危険な人」だと思われているのだ。
――可哀想な子。
心が痛い。別に変な人のつもりもない。
私をそっとしておいてくれる優しい王都の人々。
しかし、頭がおかしいと思っているのだ。
もう、この子にしてあげることは何もないんだって。
恥ずかしい。
エッチな格好しているのが恥ずかしいのに、伝統衣装を変えるのはプライドがどうしても許さない。
私はおかしくなってしまいそうだった。
これから王城へ行く。
王様と謁見があるのだ。
すでにアポイントはとってあるが、どんな屈辱を受けるか……今から武者震いが走った。
「あぁぁ、神様、助けてください。私は恥ずかしいです」
私の神への祈りは、はたして少しでも届くことはあるのだろうか。
ハイエルフ伝統の衣装 ~丸出し衣装が恥ずかしくても服を着るのはプライドが許さない~
伝統衣装はおっぱいもオマンコも丸出し。 でもプライドから人間のような服を着るのも許さない。 主人公は羞恥心という気持ちを知ってしまってからは、もう後戻りが出来なくなっていた。 「恥ずかしい。めちゃくちゃ、恥ずかしい」 ただそう思いながら街を歩いていく。