いいね 7
姫様の憂鬱
「怪我、しないでね…」 国境近くの村の様子がきな臭いと聞いて、密かに偵察に行く俺に、姫様が心配そうにそう声を掛ける。 「大袈裟ですよ。戦場に行くんじゃないんですから」 「でも…」 そう言いながら、姫様が俺の手の甲の傷痕に視線を落とす。ひと月前、同じような任務の途中で、偶然遭遇した盗賊を捕える際に負った掠り傷の痕だ。 「この前はちょっと油断しただけですよ。こんなもの、傷のうちにも入らない」 姫様は優しすぎる。俺みたいな一騎士のこんな小さい傷など、この国で最も高貴な王家の彼女が気にする必要はない。 「貴方にもし何かあったら…、わたくしは…」 泣きそうな顔でそう言う彼女に、ドキッとする。 「僕のような一騎士にいちいち同情していたら、キリがないですよ」 そう明るく笑いかけて一礼すると、俺は姫様の御前を後にした。 胸の中に確かにある彼女を想う心。 それは決して願ってはいけないものだと、キツく蓋をした。
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