花瓶の精
悠惺
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「へぇぇー。これが数億円……⁈」 待ち合わせしてた友人が体調を崩したと連絡があったのがついさっき。昨夜飲み過ぎたらしい。翌日に約束してんだから、ハメ外すなよな。 そんなわけで暇を持て余した俺は、近くのデパートで開催していたアンティーク展に立ち寄ったのだ。デパートにフラっと入ったら、入り口で優待券をもらっちゃったからね。さして興味はないが、200円で暇つぶしできるならお得じゃね? 会場は七階の催事ホール。扉の中はボルドー色の壁で仕切られ、照明もかなり絞られていた。スポットライトによって展示品が浮かび上がるような演出がされている。一端の美術館のようだった。人の入りは思っていたより疎らだ。中途半端な時間帯だからかもしれない。 順路に従って、展示品を見ていく。さも古そうな使途不明品からただのガラクタにしか見えない装飾品、中にはかなり高そうな壺やら仏像やらが並んでいた。そんな中、ひと際目を惹く物があった。大きな花瓶だ。白地に濃い青色の花(?)模様を描かれている。多分、中国かどこかの陶器か磁器だろう。骨董品を鑑定する番組で、似たような物を見た記憶があった。 花瓶の下にある申し訳程度の説明書きを読むと、且つて数億円で競り落とされた記録があるらしい。思わず感嘆の声を上げる。 いやいや。そんなもの、こんなデパートの催事で置くかな? 係員はいるけど、警備員はいないし。赤いジャケットを着た坊主頭とか白いシルクハットに白いマントを着た怪盗に盗られちゃうんじゃないの? 『案ずるな。我は行きたいところにしか行かぬ』 「はぁ?」 やや時代がかった物言いに顔を上げると、花瓶の横にトンデモないイケメンが立っていた。絹糸のような白く長い髪のひと房をゆるりと後ろに束ね、澄んだ湖のような色を湛えた目をこちらに向けて薄く微笑んでいる。花瓶の絵付けの色のようなチャイナ服(男性用)を着ていた。身長が高くスラリとした体型によく似合っていた。コスプレイヤーかな? いつからいたんだ? 全く気がつかなかった。 「って、おい。触っちゃダメだろう」 思わず声が出ていた。あろうことか目の前のイケメンは、展示物である花瓶に手をかけていたのだ。一般に、こういう展示品は『ご自由にお触りください』と言う注意書きでもない限り、触るのはNGだ。 『おお、やはり我が見えておるようだ』 「はぁ? アンタなに言って……」 『大事ない。これは我の本体ぞ』 「は?」 目の前のイケメンが何を言っているのか、理解できなかった。 『我はこの花瓶の精ぞ。日本風に言えば「付喪神」、「器物の精」と言えばわかりやすいかの?』 「はぁぁぁ―――⁈」 驚きの余り、大声が出てしまった。 係員がつかつかと寄って来て「お静かに願います」と注意された。「次は退出してもらいます」とも。しかし、イケメンの方はまだ花瓶に手をかけていたのに、なんのお咎めもなかった。 『どうやら、我はお主にしか見えぬし聞こえぬようだ』 「…………」 花瓶の精と名乗るイケメンはこちらを見やり笑いを濃くした。

