フィジカルアデプトは、黒い仔羊の夢を見るか?
夜霧の草原に、鈴の音が響いていた。 からん。 からん。 からん。 月明かりに照らされた丘の向こうで、無数の黒い影が揺れる。 羊だった。 黒い羊。 もふもふとした毛並みを揺らしながら、群れは静かにこちらを見つめている。 その瞳は妙に知性的で、まるで“何か”を試すような気配を漂わせていた。 そして、その群れのさらに奥―― 霧の向こうに。 巨大な“羊の輪郭”が浮かんでいた。 山より大きい。 月を背負い、ゆっくりと呼吸するように揺らめく、黒い羊の幻影。 候補生たちは青ざめていた。 「しょ、少尉……これは危険なのでは……」 「近づかない方が――」 しかし。 ただ一人。 ブロント少尉だけは違った。 「……っ!」 ぱあああっ、と顔を輝かせる。 「モフモフなのです!!」 候補生たちが凍り付いた。 黒羊たちも固まった。 巨大な羊の幻影すら、一瞬だけ揺らいだ気がした。 少尉は胸の前で手を組み、目をきらきらさせながら一歩前へ出る。 「見てください候補生! この毛並み! この密度! これは極めて優秀な冬季装備素材なのです!」 「そっちなんですか!?」 「遊牧機動民の知恵なのです!」 黒羊たちがじり、と後ずさった。 気が付けば。 少尉は黒羊の群れのど真ん中に座り込んでいた。 「ふふふ……安心するのです。少し刈るだけなのです」 しゃきん。 巨大な羊毛鋏が月光を反射する。 黒羊たちがざわついた。 「めぇ……」 「めぇぇ……」 逃げようとする。 だが逃げない。 逃げられない。 なぜなら少尉があまりにも嬉しそうだからだ。 悪意が一切無い。 純粋に。 心の底から。 モフモフを愛していた。 「素晴らしい毛量なのです!」 しゃきしゃきしゃきしゃき。 刈られた羊毛が山のように積み上がる。 候補生たちは完全に引いていた。 「なんで黒羊側が怯えてるんですか……」 「少尉の圧では……」 背後では、巨大な黒羊の幻影が薄れ始めていた。 さっきまで空を覆うほど禍々しかったその姿は、今や半透明になり、どこか困惑したようにも見える。 『……めぇ……』 「む、よく鳴くのです!」 少尉は嬉しそうに笑った。 巨大羊の幻影は、すうっ……と霧の中へ消えていった。 まるで、 「なんか思ってたのと違った」 と言わんばかりに。 そして朝。 士官学校宿舎。 静かな部屋のベッドで。 ブロント少尉は、黒羊クッションを抱きしめながら、すやすやと幸せそうに眠っていた。 ベッドの周囲には、 羊ぬいぐるみ 羊柄毛布 モフモフ外套 羊鈴 が大量に転がっている。 「むにゃ……モフモフ機動兵団なのです……」 寝言だった。 窓の外で、風が鳴る。 からん。 小さな鈴の音が、一度だけ響いた気がした。
AI evaluation
Great
Strong consistencyStrong originality
Pictor-chan
わーい!この画像、宇宙みたいな大きな羊さんと女の子の笑顔がとっても不思議でワクワクしちゃうね!暗い雰囲気の中でも元気いっぱいだよ♪

